笠松将が語る、主演映画『花と雨』における覚悟  「退路を断った。逃げ道がなくなった」

笠松将が語る、『花と雨』における覚悟

「10年後、20年後にも観られる作品にしたかった」

ーー常にカメラの中心に“吉田=笠松さん”が居続けるのが印象的でしたが、それも周りがあってこそだと。

笠松:本当にそうです。僕しかカメラに映っていない場面でも、相手役の方が全力で演じてくれていますから。それでこちらも温度がキープされるわけです。それに美術などもすごく細かく作り込んであって、室内のシーンでも映せない場所がないんです。僕にはちょっと分からなかったのですが、当時のカセットテープやCDプレーヤーも本当に探して仕入れてきてあって。そういうこだわりもすごいなと。

ーーSEEDA・吉田という役になりきれる環境があったんですね。笠松さん自身は演じるにあたって事前に準備をしていきましたか?

笠松:セリフを覚えただけです。芝居に関しては、リハーサルを何度もやらせてもらいました。ラップや英会話の部分が本当に下手だったんですけど、ラッパーの仙人掌さんが、深夜だろうか何時でも電話をすると出てくれたんですよ。「この人いつ寝てるんだろう……」って思いながらも(笑)、ちょっと弱気になったときも支えてくださいました。例えば、一つのやり方で行き詰まったとしたら、全然違うやり方を提案してくださるんです。ラップに関しては仙人掌さんがつきっきりで教えて、ケアしてくださったので、これも結局、僕がもらったものです。僕自身は本当に何もしていないですね。

ーーSEEDAさん、仙人掌さんといった、ラッパーの方からのアドバイスや、与えられたインスピレーションなど具体的にありますか?

笠松:本当に細かいところなんですけど、例えば吉田が稼いでいるときには新品のスニーカーを履いているんです。でもお金がないときはボロボロのスニーカーで。それに、ちょっとスニーカーが汚れたりしたら、土を掃うみたいな仕草も入れています。これは監督の演出でもあります。仙人掌さんは別にスニーカーマニアではないですけど、自宅にはレアなスニーカーが綺麗に飾ってあったり、ご本人が好きなレコードやCDがいっぱいあったりして。そういう部分が、直接的にではないですが、空気感としてインスピレーションを得られたなと。SEEDAさんからは9月2日の深夜に、「笠松さんと二人で話したい」と言われて。何を言われるのかな……と、ちょっとドキドキしながら行ってみたら、二人でドライブをして、いろんな人に会いに連れて行ってくださいました。みなさん優しい方々なんですけど、初対面でお会いするには印象深い方たちばかりで(笑)。SEEDAさんがその方たちに、「笠松さんが僕を演じてくれる」と紹紹介してくださり握手しました。そして、「この場所でこんなことがあったよ」とか、「この場所でこの時間に歌詞を書いたな」とか、いろんな話を聞かせてくれました。僕自身の人生にとってもいい思い出です。アルバム『花と雨』ができたタイミングで何をしていたか説明してもらいながら旅をしているようで……なんて贅沢なバスツアーなんだろうと。だからこそ、セリフさえあれば自然と役に入っていけました。

ーーすごい体験ですね。さっきの話にも出ましたが、実在する方をどう演じようと?

笠松:SEEDAさんのことはもともと知っていましたから、最初は「モノマネ」でした。SEEDAさんの笑い方が特徴的だったから、その笑い方を真似していたんですが、途中から「いや、そういうことじゃないな」と思って。笑い方を真似して、それが似ていたとして、それでこの作品に“痛み”が伴わないならば意味がない。笑い方なんて似ていなくても、ちゃんと吉田が、何に悩んでいて、何が楽しくて、一体何を求めているのか……それを追求していった方が作品として面白いですし、僕は10年後、20年後にも観られる作品にしたかった。アルバム『花と雨』もそうですが、時が経ってもまるで最新の曲みたいに聞ける。そういうものを作りたいと思ったときに、モノマネはやめようと決めました。それを監督も望んでくれたので、もっと人間の物語になるように話し合いました。

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