新解釈のロビン・フッド映画 タロン・エジャトン主演『フッド:ザ・ビギニング』が掲示した可能性

『フッド:ザ・ビギニング』が掲示した可能性

 『ジョーカー』や『アベンジャーズ』シリーズなど立て続けにヒットを飛ばし、「アメコミヒーロー映画全盛」といえる状況にある、現在のアメリカ映画。そこに登場する数多くのヒーローたちのイメージをかたちづくったのは、コミック以前に語り継がれてきた伝承や神話の英雄たちだ。そのなかで現在のヒーローの姿に非常に近いと感じられるのが、中世イングランドの伝説に登場する、“義賊”ロビン・フッドである。

 イギリスのノッティンガム、シャーウッドの森に隠れ住み、特徴的なコスチュームに身を包んで、類稀な弓の技術で権力者と戦い、暴政に苦しむ貧しい人々に奪った富を分け与える。まさにロビン・フッドは、正義のヒーローの原型といえるのではないか。

 本作『フッド:ザ・ビギニング』は、そんなロビン・フッド伝説を、現在のヒーロー映画の文脈に沿いながら、現代社会の問題を反映させていくという、いままでになかった解釈のロビン・フッド映画だ。ここでは、本作の様々な興味深い点について、できるだけ深く考えていきたい。

 まず目を引くのは服装だ。ダークヒーロー“フッド”として目覚めたロビンは、ダイヤ柄のレザージャケットにフッド(フード)を付けたコスチュームを身につける。アーガイルチェックなどの伝統的なテイストをとり入れているとはいえ、もはや中世の印象というより、いま着ていてオシャレな服装である。その他、登場人物たちのコートやスーツ、兵士の装備に至るまで、衣装デザインを担当したジュリアン・デイ(『ボヘミアン・ラプソディ』、『ロケットマン』)による、現代風に解釈された衣装というのは、本作のコンセプトを雄弁に語っているといえる。つまり、中世の世界を、現代的な美的感覚でそのまま楽しめる作品に仕上げるという試みである。

 そんな、現代の目で“イケてる”ヒーローである“フッド”を演じるのは、『キングスマン』シリーズで脚光を浴び、『ロケットマン』で幅のある演技と歌唱力、そしてダンスのキレを見せ、人気を不動のものとしているタロン・エジャトン。その風貌や、身軽にアクションをこなせる身体能力は、本作のスピーディーなバトルに身を投じるヒーロー役に相応しいといえよう。そして、アベンジャーズの一員である、弓を操る“ホークアイ”を連想させる、そのアメコミ的なヒーロー像は、『キングスマン』がコミック原作のスパイ映画だったことを思い出させるのだ。

 本作の最初の見どころとなるのが、国土の一部を治める領主であるロビンが、十字軍の遠征に加わり、他国で戦闘する場面だ。弓をつがえながら、いつでも発射できる状態で警戒しながら市街地を進んでいく軍の姿は、現代の兵士の動きに酷似している。そして彼らを襲う、まるでマシンガンのような矢の連射兵器……。そう、ここでの描写は、まさにアメリカ軍やイギリス軍の兵士が駐留し戦闘を行った、イラク戦争そのもののように演出されているのだ。

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