『クリード 炎の宿敵』は新たなチャレンジが少ない旧世代のための映画? シリーズの存在価値を考察

『クリード 炎の宿敵』旧世代のための映画?

 前作から引き続き、音楽を担当するルドウィグ・ゴランソンは、ヒップホップの大物アーティストの楽曲を手がけてきたマイク・ウィル・メイド・イットとコラボレートし、新しい境地の音楽を提供している。とくにトレーニングのシーンでは、そのオーケストラとヒップホップを融合させた劇伴によって、30年以上前にイワンと戦ったロッキーの精神がアドニスの肉体に染み込んでいく過程を、サウンド面で劇的に表現していて見事だ。

 だが同時にここで与えられるのは、果たして『ロッキー3』や『ロッキー4/炎の友情』は、神格化された伝説として扱われるべき傑作だったのかという疑問である。この2作は、『ロッキー』シリーズのなかで比較的スケールの小さい、地に足のついた物語だった1、2作目、及び5、6作目とは異なった展開を見せる作品だ。そこではロッキーが10戦を防衛したチャンピオンとして、地元フィラデルフィアに銅像が建つほど英雄視されたり、ついにはアメリカとソ連の間の代理戦争のような試合に臨むことになるという、もはやボクシングやアスリートの枠すら超えた偉大な存在にまでなってしまっている。第1作のストーリーと比較すれば、興ざめするところがある観客も少なくないのではないだろうか。

 とくにロッキーとイワン・ドラゴの対決については、ソ連を悪役にしてアメリカが勝利するという、観客を喜ばせる方法としては、当時としても少々安易なストーリーであったことは否めない。ロッキーが劇中で融和を呼びかけるようなスピーチについては、そういう展開へのエクスキューズとして機能させているようにも思える。なぜなら30年以上経過した本作でもまた、ステレオタイプなロシアの姿を描いてしまっている部分があるからである。ドラゴ親子が、そのような“ロシア的”価値観から脱却していく進歩を見せる描写があったとしても、ベースとしてのロシア観はあまり変わっていないということになる。果たしていま、このような構図まで本作に継承する必要があったのかという点については疑問だ。

 前作『クリード チャンプを継ぐ男』は、鮮烈で画期的な作品だった。主人公のアドニスは、陽気で芯の太いアポロとは異なり、繊細で自信のないキャラクターとして表現され、また試合をする選手たちに接近して長回しで撮影するなど、いままでのシリーズにはなかった試みが、いくつも用意されている。その姿勢からは、いままでの『ロッキー』シリーズのような手法では現代には通用しないという、厳しい自己評価が感じられるところだ。そして、そう観客にも思わせたうえで、「やはり最後は昔ながらの根性がものをいう」というように、王道の展開にまた回帰するという構成になっている。それは、『ロッキー』シリーズを切り分けて、新しい表現に移行する部分と、現代に継承するべき部分を残すという行為でもあり、ある意味では、これ自体がシリーズへの優れた批評といえるものになっている。

 当初はスタローン自身が『クリード』シリーズ第1作の監督を務めるはずだったという。だがもし彼が監督をしていれば、このようなアプローチをすることはできなかっただろう。新鋭ライアン・クーグラー監督が、若手としての強みや、前作『フルートベール駅で』で見せたドキュメンタリー風撮影など、自身の作家性を発揮しようとしたからこそ、『クリード チャンプを継ぐ男』は、新しく作る意味のある挑戦的なものとなったのだ。対して本作は、『ロッキー』シリーズのなかでも最も保守的で独善的な危うさを持った第4作に対し、強い批評性を持たずに多くを肯定してしまっているように感じられる。

 ついでにいえば、アドニスの練習法や試合展開も、その後の展開への説得力に欠けたものになっていたように思える。第4作でスタローンがサンドバックに放っていた重いパンチは、確かにこんなものを何発も受ければどんな人間もひとたまりもないと思えるほどの圧力があった。比較的細身といえるマイケル・B・ジョーダンは、少なくとも映像からだけでは絶体絶命の状況から巻き返せるだけの力があるようには見えづらく、また手痛いダメージを受けてダウンした状況から反撃に転ずる場面では、もともと用意された結果のためにヴィクターが無理に弱体化させられてしまっているように見え、鼻白む部分がある。

 前作は紛れもなく新世代のための映画だった。だが本作は乱暴に言ってしまえば、新たなチャレンジが少ない旧世代のための映画になっていたといえるのではないか。これでは『クリード』シリーズではなく、さらなる『ロッキー』シリーズではないだろうか。「だったら何が悪い」と言われると困るのだが、第1作がせっかく到達した境地を捨ててしまうのでは、シリーズの存在価値そのものが揺らいでくる。今後もおそらくは作られることになるだろう続編は、より新たな演出、新たな価値観、新たな物語によって、アドニス・クリードの未来を描いてほしい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『クリード 炎の宿敵』
全国公開中
出演:シルヴェスター・スタローン、マイケル・B・ジョーダン
監督:スティーブン・ケイプル・Jr.
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
公式サイト:www.creedmovie.jp



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