『劇場版 忍たま乱太郎』には愛が溢れ過ぎている 熱いファンの期待に応えた完璧なバランス
観ている間、愛でむせ返りそうだった。作り手側からの作品への愛、キャラクターへの愛、連綿と続いてきた作品世界への愛、初めて劇場で作品に触れる子どもたちへの愛、そして作品世界をずっと愛してくれているファンへの愛。
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』(以下、『最強の軍師』)は、アニメ『忍たま乱太郎』の実に13年ぶりとなる劇場映画である。待ちに待っていた熱いファンの期待に見事に応える作品だ。
尼子騒兵衛の漫画『落第忍者乱太郎』から生まれたアニメ『忍たま乱太郎』は、1993年にNHKで放送が始まり、現在はEテレで第32期が放送中の人気長寿アニメである。この30年、主題歌「勇気100%」を口ずさんだことのない小学生はいないんじゃないだろうか。
作品のメインターゲットは子どもだが、熱い大人のファンが大勢いることも知られている。劇場公開に合わせて、メインキャラクターの一人あり、『最強の軍師』の鍵を握るキャラクターでもある土井先生が女性誌『anan』の表紙を飾ったのも人気の証明である。2025年1月には、本作を含む劇場版3作品を上映する「オールナイト応援上映」の開催が決定した。ファンたちの愛が一晩中響き渡ることになりそうだ。
物語は、忍術学園一年は組の担当教師、土井先生がタソガレドキ忍者の諸泉尊奈門との決闘の後、消息を絶つところから始まる。山田先生と六年生たちによって土井先生の捜索が始まるが、一年生のきり丸は偶然、土井先生が行方不明になってしまうことを知ってしまう。
そんな中、ドクタケ忍者隊の軍師・天鬼が現れて六年生たちを圧倒する。天鬼の正体こそ、姿を消した土井先生だった。天鬼の策略によってドクタケ城が戦乱を起こそうとしている中、土井先生を奪還するため、きり丸をはじめ忍術学園の一年生たちは戦場へと向かう。
こうしてあらすじをたどっていけばわかるように、本作の雰囲気はかなりシリアスだ。原作の『小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師』は、2013年に刊行されて話題になったTVシリーズの脚本を務めた阪口和久によるもの(阪口は本作の脚本も務めている)。藤森雅也監督は『忍たま乱太郎』がギャグアニメであることを踏まえた上で、「キャラクターの感情の流れやドラマを一番優先させ、その脇にギャグの流れがあるという形で作っていきました」と語っている。(※)
とはいえ、子どもを飽きさせないためのギャグもそこかしこに散りばめられている。その一方で、戦国時代の厳しさも描かれている上、藤森監督がこだわりを見せるアクションもロジカルな動きで迫力十分である。何より、それぞれファンを持つ大勢のキャラクターが登場をさせてそれぞれを立たせる一方で、『忍たま』ビギナーでも問題なく楽しめるバランスに仕上がっているのは特筆に値する。では、総花的な作品になっているのかというと、まったくそんなことはない。あちこちに配慮してバランスを取った上で、ここぞというときにアクセルを踏み込んでいる。地雷原を軽々と綱渡りして宙返りするような離れ業をやってのけていると感じた。