『べらぼう』が大河ドラマだからこそ描けるもの インティマシー・コーディネーターに聞く

1月5日に始まり、早くも話題となっている横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)。大河ドラマ第64作目となる本作は、江戸のメディア王と呼ばれた“蔦重(つだじゅう)”こと、蔦屋重三郎(横浜流星)の笑いと涙と謎に満ちた“痛快”エンターテインメントドラマだ。
蔦重は、町人文化が花開いた江戸中期に版元(出版業者)として活躍。喜多川歌麿や葛飾北斎、東洲斎写楽など名だたる浮世絵師を起用し、当時まだ無名だった彼らの作品を世に知らしめたことでも知られる。そんな蔦重の故郷にして原点となったのが、吉原だ。

吉原の貧しい庶民の子として生まれた蔦重は、幼くして両親と生き別れ、客を女郎屋に案内する引手茶屋の養子に。茶屋で働くかたわら、貸本業を営み、吉原で共に育った幼なじみ・花の井(小芝風花)をはじめ、吉原の女郎たちに本を届ける。
初回放送では、老舗女郎屋「松葉屋」を代表する花魁である花の井の迫力ある花魁道中が話題を呼んだ。リアルサウンド映画部は、2024年夏に敢行された同シーンの撮影に密着。吉原風俗考証担当の時代考証家・山田順子氏と、インティマシー・コーディネーター(IC)の浅田智穂氏のコメントも交えて、撮影の裏側を紹介する。
今までにない吉原を描く

吉原遊郭は江戸幕府第2代将軍・徳川秀忠の治世下であった1617年に、幕府公認の遊郭として葦屋町(現在の日本橋人形町)に誕生。その後、明暦の大火をきっかけに浅草寺裏の日本堤(現在の台東区千束)に移転され、1957年に売春防止法が施行されるまで340年にわたって営業を続けることとなる。そんな長い歴史の中で、蔦重が暮らしていた頃の吉原はどのような状況にあったのか。山田氏は次のように語る。
「前半で描かれるのは、豪商やお殿様が豪遊していた時代が終わり、町人が通い始めた頃。というのも当時、近くの深川に岡場所(幕府非公認の遊郭)ができ、庶民的な商売を始めたことで、吉原からは客足が遠のいていたんです。そこで、吉原も高級なお店はかろうじて格式を保ちつつ、中見世、小見世はより手軽に遊べる商売形態となり、次第に客層も変化していきました」
大名や豪商は引手茶屋で女郎に関する情報を得ていたが、蔦重はそれを庶民に向けて発信した『吉原細見』という、店ごとに女郎の格付けや揚げ代(女郎を呼んで遊ぶときの代金)などをまとめたガイドブックのような冊子を手がけ、版元としての一歩を踏み出し、人々をあっと驚かすような新たな試みを次々と実践していく。蔦重の一代記は、ビジネスストーリーとしても楽しめそうだ。
そんな本作を手がけるのは、2017年の大河ドラマ『おんな城主 直虎』、『天皇の料理番』(TBS系)、NHKドラマ10『大奥』など、数多くの名作時代劇を世に送り出してきた森下佳子。過去に何度も森下の作品で時代考証を務め、『JIN-仁-』(TBS系)では幕末期の吉原を見事に再現した山田氏は「以前から森下さんとは『もういちど吉原を描きたいね。その時は今までにない吉原を描こう』とお話していて、今回はその約束を果たそうという気持ちでオファーを受けました」と明かす。
今回、特に山田氏がこだわったのが“リアリティ”だ。吉原遊郭の撮影にあたっては都内某スタジオに大規模セットを組み、メインストリートとなる中の町を完全再現した。通りの幅は史実通り、約11mに設定。LEDディスプレイに3DCGで作成した背景を表示させ、250mの奥行きと吉原の賑わいも表現されている。驚くべきは、中の町に立ち並ぶ引手茶屋も外観だけではなく、内部まで精巧に作り込まれていること。筆者も中に入らせてもらったが、第1回で蔦重が高橋克実演じる駿河屋市右衛門に突き落とされた階段を登り、二階の座敷から通りを見下ろした時には当時にタイムスリップしたような感覚になった。
インティマシー・コーディネーターが大河ドラマに参加する意義

ビジュアル面はもちろんのこと、一見華やかな吉原で起きていた現実も美化せず描くことを目指している本作。キャストが安心して撮影に臨めるように大河ドラマでは初となるインティマシー・コーディネーターが導入された。NHKドラマではドラマ10『大奥』、『生理のおじさんとその娘』、『燕は戻ってこない』などにも参加した浅田氏は、今回の起用について以下のように思いを明かす。
「NHKの大河ドラマというと、全国的にたくさんの視聴者がいて、とても影響力のある作品です。そこにインティマシー・コーディネーターが参画するということ自体にメッセージ性があると思っているので、そのぶん責任も強く感じています」
インティマシー・コーディネーターとは、映像作品においてヌードや性的な描写があるときに、俳優が精神的にも身体的にも安心安全に演じることができ、かつ監督の求めているビジョンを最大限実現するために、コーディネートするスタッフのこと。
「どうしても俳優を守る職業だと思われがちなんですが、それだけではありません。監督が思い描いているビジョンも大事で、俳優の皆さんの意志や同意を尊重した上で、理想の形にどう近づけていくかを考えるのが役目であって、私自身も良い作品づくりに貢献したいという気持ちで参加しています」と浅田氏は強調した。



















