いま作られるべきテレビドラマとは 『べらぼう』『ホットスポット』など2025年冬ドラマ展望

2024年の年末に開催したリアルサウンド映画部恒例企画のドラマ座談会。前編では、『虎に翼』(NHK総合)、『不適切にもほどがある!』(TBS系)、『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)、『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)などを中心に2024年の話題作から、テレビドラマをどう語るべきかといった話題に展開。後編では、2025年1月期のドラマも含め、これからのテレビドラマに求められるものにまで話は及んだ。
テレビドラマは今どう語られるべきか? 『ふてほど』『アンメット』など2024年重要作を総括
2024年は、ユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞に「ふてほど」(『不適切にもほどがある!』(TBS系)の略称)が選ばれ、トップ…
ドラマの作り手たちの“共通言語”となっている朝ドラ
ーーNHKドラマは良作ばかりで、当サイトで執筆してくださっている方々も高い評価をしています。その一方で、『虎に翼』は例外としても、記事の反応をみていると、民放ドラマの方が強い部分もあります。NHKもNHKプラスがありますが、やっぱりTVerで放送後も無料で観ることができるのはものすごく大きいのではないかと感じています。
木俣冬(以下、木俣):それが新語・流行語大賞で「はて?」が受賞しなかった理由かもしれないですね。ライターや評論家やドラマウォッチャーが思うほどNHKが“絶対”ではないという。
成馬零一(以下、成馬):都知事選やアメリカ大統領選挙と同じ現象ですよね。ドラマ好きの間でNHKがエコーチェンバー化している。
田幸和歌子(以下、田幸):それは思いました。ドラマ好き映画好きみたいな人はNHKドラマをすごく推しますけど、ドラマを普段観ない人から挙がるのはNetflixの『地面師たち』と『極悪女王』ばっかりでした。
成馬:テレビを観る習慣がない人の場合、Netflixの方が身近だったりするんですよね。『さよならのつづき』もNetflix作品です。
木俣:『さよならのつづき』は黒崎博さんが監督で脚本が岡田惠和さん、主演が有村架純さんという朝ドラ『ひよっこ』(NHK総合)チームが集結した作品です。潤沢な予算と余裕のあるスケジュールがあると、こんな豪華な作品が作れるんだと感動しました。でもそこに社会派テイストを入れる手つきが、やっぱりNHKの人だなぁって思いますね。
成馬:作り手の間ではNHKの影響力は凄いですよね。特に朝ドラは共通言語になっている。まぁ、芝居が上手い俳優を揃えようとすると朝ドラでブレイクした人ばかりになってしまうのは仕方ないですよね。『虎に翼』と同時期に放送された『新宿野戦病院』(フジテレビ系)に『虎に翼』に出演していた俳優が多数出ていたのも同じ現象で、作り手としては演技が上手い旬の人を揃えたら、たまたま朝ドラキャストと被っただけかもしれない。
田幸:作り手が頭の中から朝ドラを消さないとダメですよね。
成馬:『海に眠るダイヤモンド』も過去パートは神木隆之介、杉咲花、土屋太鳳と朝ドラ主人公が揃ってますし、現代パートのIKEGAYAの家族が宮本信子、尾美としのり、美保純が『あまちゃん』(NHK総合)出演者。子供に『虎に翼』で美佐江を演じた片岡凜がいるってのがまたおかしくて(笑)。
田幸:『らんまん』(NHK総合)で藤丸を演じた前原瑞樹さんも虎次郎の役で出てましたよね。前原さんと神木さんが二人で並んでたら『らんまん』ですよ。そこに盛り上がる方も当然いるわけで、ある種のサービスですが。
成馬:大変ですよね。どうしても朝ドラの重力に引っ張られちゃうというか。それは作品というより、キャスティングに感じることが多い。
木俣:ただ、庇うわけじゃないですけど『海に眠るダイヤモンド』の朝ドラ文脈は、私はあまり気にならなかったんですよね。前原さんが出てきても『らんまん』コンビだとXでつぶやく気も起きなかったですし。それは悪い意味ではなくて、それだけ野木(亜紀子)さんが作った物語に入り込めたからだと思うんですよね。私は朝ドラの記事を毎日書いてるので、何でも朝ドラに結びつける癖が、この10年で身についてしまったのですが、そんな私が萬太郎と藤丸だーと思わず、鉄平と虎次郎としか見えなかった。神木隆之介さんと前原瑞樹さんがしっかりした芝居をしていたからだと思うんです。
成馬:僕の印象では『海に眠るダイヤモンド』って日曜劇場が、朝ドラと大河ドラマ、スタジオジブリと山崎貴に本気で戦いを挑んで越えようとした作品で、だからああいうキャスティングだと思ったんです。
木俣:それらが全部フックなんですよね。考察要素と同じで。フックって観てもらうためには必要なんですけど、フックがメインになっている作品と、フックを入り口に描きたいことがちゃんとある作品はやっぱり違って。『海に眠るダイヤモンド』はフックの先にちゃんと描きたいことがあったことに価値を見出したい。
田幸:フックは見てもらうために必要なこともあるでしょうけど、作品全体のクオリティはフックなんていらないものでしたよね。細かいフックはどうでもよくて、端島で暮らしている人の日常をあれだけ丁寧に描かれている。そこだけでも別格で出色の出来だと思います。
成馬:ただ、その見方を視聴者が共有できていたかというと、どうしても疑問が残るんですよね。日曜劇場の平均世帯視聴率でいうと3%くらい落ちているので、その振り落とされた人たちはどう思っているんだろうってのが、どうしても気になる。
木俣:その3%はどこに行ったんでしょうね。ひと昔前なら『半沢直樹』(TBS系)や『家政婦のミタ』(日本テレビ系)のような高視聴率を取る作品がありましたけど、今は中心がわからないですよね。
田幸:たぶん『不適切にもほどがある!』(TBS系、以下『ふてほど』)にハマった人と『虎に翼』にハマった人を合わせると100%になるんですよ(笑)。
成馬:ドナルド・トランプVSカマラ・ハリスを日本でやると『ふてほど』VS『虎に翼』になる。
ーーちなみにTVerの再生回数ランキングだけで言うと『海のはじまり』(フジテレビ系)がダントツなんですよね。
成馬:目黒蓮と生方美久の力ですよね。でもTVerで観ている人ってSNSで可視化されないですよね。生方さんのドラマじゃないですけど、静かにコミュニティ化しているって印象がある。
木俣:リアタイしてドラマ語りをするタイプの作品じゃないものがTVerで観られているってことですよね。ただ、見て、物語や登場人物を楽しむというのかな。
成馬:さすがに『silent』(フジテレビ系)、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)、『海のはじまり』と3作続けて観ると、生方さんが作家性のあるドラマ脚本家だと誰の目にもわかりますけどね。でも観ている大半の人は、90年代なら月9の恋愛ドラマを熱心に観ていた人たちなのかなと思います。だから作り手とファンの間には少しギャップがあるんですけど、外部の煩い雑音を遮断して「静かで優しい世界」を作りたいという願望において、なんとなくきれいにまとまっているという状況ですよね。
テレビ東京ドラマの変化と可能性
田幸:実は私はテレビ東京のドラマがめちゃくちゃ好きなんですけど、近年ちょっとだけ心配してたんですよ。かつては低予算だけど、企画の面白さと自由度の高さによって、監督や役者がギャラ度外視で受けるイメージがありましたが、今は配信対策もあって、不倫とかBLとか似たテーマの作品が増えてますよね。
成馬:『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』(テレビ東京系)は、若者向けドラマが生方美久的な「静かで優しい世界」に寄りすぎてる中で、やっとカウンターとなる表現が出てきてくれたって感じです。「静かで優しい世界」に憧れているし、そういうふうに生きたいけど、それを許してくれないという社会が存在しているというのを殺し屋の世界で描いてくれたというか。基本的にはカッコいいアクションと、女の子のゆるふわなやりとりがシームレスに描かれる少し変わった作品なんですけど、若い子たちが直面している社会や労働の苦しさがしっかりと描かれているんですよね。阪元裕吾監督にドラマ脚本家としての力量があるということが証明された作品なので、映画のスピンオフだと思ってスルーした人には是非観てほしいです。
田幸:単独でドラマだけ観ても面白いですけど、順番に観ていくとちさと(髙石あかり)とまひろ(伊澤彩織)の成長と関係性の進化が見えてるのが面白いですよね。2人の友情でもないし恋愛でもない。あの振り返っていくと関係性が変化して進化してやってるのが見えるのと、あとやっぱり距離感の変化とかもすごく面白い。映画からのスタートでこういう形になっていくのは、一つの理想で、その出し先をテレビ東京の深夜ドラマにしたのは本当に良かったなと思います。しかも放送中に髙石あかりさんが2025年度後期の朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)のヒロインに選ばれましたし、役者の成長をリアルタイムで見られる高揚感もありましたよね。
成馬:このシリーズ自体が、殺し屋が主人公の朝ドラを観ているような感じですよね(笑)。
田幸:あと、成馬さんが年間ベストの2位に入れている『イシナガキクエを探しています』(テレビ東京系)。放送をなにげなくリアルタイムで観てビックリしたのですが、ランキングには頭に全くなかったです。
成馬:そもそも「これドラマに入れていいの?」ってのがありますよね(笑)。
田幸:モキュメンタリーですよね。こういう作品ができるのもやっぱりテレビ東京ならでは。テレビ東京は、かつてはマイナー路線で低予算とずっと言われてたじゃないですか。でも『きのう何食べた?』(テレビ東京系)で西島秀俊さんと内野聖陽さんが出演したあたりから、テレ東ドラマはむしろ他局に模倣されたり追われたりする立場になっていて、それと引き換えに昔のテレ東が持ってた、低予算だけど攻めてるマイナー性が若干減ってきて「テレ東どこに行くのだろう」って思ってたんです。だから、『イシナガキクエを探してます』みたいな作品が出てくるのが「やっぱりテレ東だなぁ」と。
成馬:この作品は、大森時生さんという若手プロデューサーが担当していて、年末(12月23~26日)にも『飯沼一家に謝罪します』(テレビ東京系)という番組が放送されたのですが、どれも面白い。始まりはバラエティー番組ふうなんだけど映像の節々に違和感が散りばめられていて、やがてその違和感が前面に出てきて最終的にとんでもない場所に連れていかれる。「疑似放送事故」と僕は呼んでるんですけど、常に事故を再現しているような気持ち悪さがあってテレビ番組として、とても面白い。他にも、大森さんがプロデュースした酒井善三監督の『フィクショナル』も良かった。ショート動画プラットフォーム「BUMP」で配信されたWEBドラマを一作にまとめたものが映画になったのですが、途中から陰謀論の話になるんですよね。それが凄く今の時代の気分を現していて。今年は闇バイトを題材にしたドラマも多かったのですが、普通のことだと思っていた仕事や人付き合いが、気がつくと闇バイトや陰謀論の世界に変質して引き返せないところに連れていかれるんじゃないかという不安が今の若い子にあるんじゃないかと思うんです。それは『ベイビーわるきゅーれ』の殺し屋の世界もそうで、だからこの2作を観ているとすごく今だなと思います。一方で、そういう大人の恐い社会を遮断して、自分たちを傷つけない「静かで優しい世界」を作りたいってのが生方美久さんですよね。阪元さんも大森さんも生方さんも30代前後だと思うのですが、自分の中では若者の気分を代弁している3本って感じです。
木俣:ここ数年『水曜日のダウンタウン』(TBS系/以下『水ダウ』)のプロデューサー・藤井健太郎さんがやってることを、テレビの作り手が意識していて、フィクションでもああいう刺激的なものをやりたいと考えていたところがあったと思うんですけど、『イシナガキクエを探してます』と『水ダウ』ってすごく親和性があって、ヤバいものが観たいという気持ちにグイグイ訴求している感じはあります。一方で『ベイビーわるきゅーれ』は日常のヤバい部分と、女の子2人の楽しい感じを同時に描くことでソフトにしているのが上手いなと思う。『水ダウ』のエグみが苦手な人でも、『ベイビーわるきゅーれ』のようにゆるさもあるフィクションにしてくれると楽しめるんじゃないでしょうか。だから可能性はすごくあるなぁと。テレ東はこの調子で頑張ってほしい。