『ウォレスとグルミット』約20年ぶり新作長編はファン歓喜の一作 “古さ”と“新しさ”が融合

ストップモーションアニメーションの番組『ひつじのショーン』の放送が開始されたのは2007年。それ以降、作品は広く知られるようになり、牧場の羊である主人公のショーンは世界的キャラクターとして、アニメーションスタジオ、アードマン・アニメーションズの顔にまで成長した。
そんなショーンは、もともと同スタジオの人気シリーズ『ウォレスとグルミット』の劇場用作品『ウォレスとグルミット 危機一髪!』(1995年)に登場したキャラクターだった。『ひつじのショーン』は、『ウォレスとグルミット』シリーズのスピンオフとして始まったのである。
その象徴的シリーズ『ウォレスとグルミット』の新作が、久々に長編作品として配信リリースされた。『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』は、それだけでなく、過去の名作短編『ペンギンに気をつけろ!』の印象的な悪役、ペンギンのフェザー・マッグロウが再登場する、ファン歓喜の一作ともなった。ここでは、本作『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』を、過去作と併せて解説していきたい。
そう、『ウォレスとグルミット』こそ、イギリスを代表するストップモーションアニメーションのスタジオ、アードマン・アニメーションズの原点であり、その名を世界に知らしめたシリーズなのだ。創造性豊かな発明家ながらとぼけたお人好しのウォレスと、無口ながら優れた洞察力でウォレスをサポートとするビーグル犬のグルミット。このコンビの魅力はもちろんとして、何より“ストップモーションアニメで、ここまで複雑な表現ができる!”というインパクトを、シリーズ初期短編は世界に与えたのである。
最初のエピソード『チーズ・ホリデー』は、創造主ニック・パークが美術学校の卒業制作として手がけた始めたもので、完成まで6年もかかったというだけあり、驚異的な完成度を誇っている。そして、さらに世界を驚かせたのが、1993年公開の短編『ペンギンに気をつけろ!』だった。
ストップモーションアニメには、長い歴史とイジー・トルンカ監督やカレル・ゼマン監督などなど、芸術性も高く評価されてきた歴史があるものの、その素朴さは1990年代あたりにはノスタルジーの対象となっていたところもある。そんな時代にニック・パークは、クレイ(油粘土)の質感の美しさや、優れた実在感を担保したままで、表現の幅、可能性がまだまだストップモーションアニメーションにあることを、この『ペンギンに気をつけろ!』で見せつけたのだ。
なかでも、ミニチュアの列車を利用したクライマックスの西部劇風の室内の追走劇は、スピーディーな攻防のなかに、さまざまなアイデア、ユーモアが組み込まれ、その尽きない創造性は多くのファンの心に深く刻まれ、アニメ史上の名シーンとしても歴史に刻まれている。