佐藤健、“白血球アクション”で示した主演俳優の器 『はたらく細胞』ヒットの立役者に
この年末年始にかけていくつもの話題作が公開されたわけだが、永野芽郁と佐藤健がダブル主演を務めている『はたらく細胞』が圧倒的な強さを誇り、大躍進を続けている。ユニークなアイデアに支えられた物語の魅力もさることながら、やはりこの独自の世界観の中を生きる俳優たちのパフォーマンスに目がいく。
日本のエンターテインメント界の中心に立つ者たちによる演技合戦は一見の価値ありだ。いや、必見である。個人的にはこれを牽引するポジションにある佐藤健の一挙手一投足に見惚れてしまった。主演とはいえ、本作における彼の功績はあまりにも大きいのだ。
本作は、高校生の漆崎日胡(芦田愛菜)と、その父親である茂(阿部サダヲ)の“体内”を舞台にしたもの。人間の体内には37兆個もの細胞が存在し、血液の循環により酸素を運ぶ赤血球や細菌と戦う白血球をはじめ、さまざまな細胞たちが寝ずの番ではたらき続けている。この存在とはたらきがあるからこそ、私たちの日常は正常に回っているのだ。
無数に存在する赤血球のうちのひとつに永野が扮し、数多く存在する白血球(好中球)のひとつを佐藤が演じているほか、山本耕史、仲里依紗、松本若菜、染谷将太といった華やかな面々が、それぞれ別の細胞たちのリーダー的な役どころを務めている。
本作における佐藤は一切の笑顔を見せることがない。というより、その表情にはつねに色がない。白血球は細菌たちが体内に侵入するなり「殺す」などと物騒な言葉を発するが、その声の調子は正常時とほとんど変わらない(本能的に殺気立っているのが分かる程度)。つまり、いわゆる“感情”というものを持ち合わせていないのだ。白血球は非常に多く存在するため、彼は漆崎日胡という人間の体内において匿名的なキャラクターだともいえるだろう。
佐藤が演じているのはあくまでも白血球の一部であり、37兆個もの存在する細胞たちの一部。この“一部”のポジションに佐藤は徹しているわけだが、これを務めるのはかなり難しいことなのではないだろうか。先述しているとおり白血球は匿名的な存在なのだから、誰にでも演じられるとは思う。極端なことをいえば、演技経験のない者でも可能だろう。しかし佐藤の場合はこのキャラクターを保ったまま、『はたらく細胞』という作品が織り成す物語を展開させていかなければならない。主演俳優の務めである。