小池徹平は登場人物たちの“鏡”となるーー『リバース』原作とドラマの違いを読む
「リバース」という言葉の意味を、「川」とする。川は水であり、透明な水は鏡となって、覗き込む人自身を映し出す。それは、テレビドラマ『リバース』の登場人物たちにとって、小池徹平が演じる死者・広沢由樹だ。
大学のゼミ旅行の最中、遅れて合流する予定だった村井(三浦貴大)を迎えにいった広沢が事故死した。その原因はうやむやにされたまま事件は幕を閉じ、広沢と共に旅行していたメンバーは、それぞれの秘密を隠したまま10年の歳月を過ごしていた。
湊かなえ原作とドラマ版の相違点は挙げていったらキリがないほどだ。6月9日放送の9話に至っては、予告を見た限り、原作を読んでいたとしても完全に予測ができない。だが、最も大きな違いは、主人公・深瀬(藤原竜也)以外の登場人物たちそれぞれの視点が描かれていることだろう。深瀬の一人称では知ることができなかったゼミメンバーや、前回放送で広沢の元恋人だったことが判明した美穂子(戸田恵梨香)の、これまで過ごしてきた人生やそれぞれの思いがより色濃く描かれている。
序盤の段階では何をやってもうまくいかないちょっとダサい深瀬と比べて、片や一流商社に就職した谷原(市原隼人)、政治家秘書の村井、初志貫徹を貫いて教師になった浅見(玉森裕太)の3人は、完全に住む世界が違う人で輝いて見えた。だが、実は、お調子者のようでメンタルが弱い部分も垣間見せる谷原は会社でうまくいかず、1人で悩みを抱え込んでいた。村井は、政略結婚で結ばれた妻(趣里)と不仲で、家庭は完全に崩壊し、逃げるように不倫に走っていた。浅見は教え子であるサッカー部の生徒たちの飲酒問題をうやむやにしないことで、自分自身の10年前の罪と向き合おうとしていた。
これらの原作に描かれていないエピソードは、深瀬が「殺人者」と書かれた告発文と美穂子との出会いがきっかけで広沢の死と向き合うことになるのと同じように、それぞれにうまくいっていない大人たちが、広沢の死という原点に立ち戻るきっかけを与えている。まるで、第4話で深瀬が言った「うまくいかないことがあった時、全部報いだと思ってしまう」の言葉そのままに、彼らもまた、うまくいかない人生の原因を、広沢の死とその隠蔽の罪に求めたのかもしれない。広沢の死は、登場人物たちを過去の自分に立ち戻らせると共に、現在の自分と向き合うきっかけを与えることになる。原作とドラマにおける事件から現在までの時間が3年と10年という大きく離れているのも、ドラマが青春時代の輝きと罪、そしてそれを経て大人になってしまった彼らの苦渋を描こうとしたためだと言えるだろう。
広沢が、登場人物たちにとっての鏡としての「川」である理由は、その死だけではなく、性格にある。演じる小池徹平の邪気のない笑顔がよりその純粋さを際立たせ、その性質を強く印象付けている。深瀬のたった1人の親友だった彼は、高校の同級生である古川(尾上寛之)にとってのたった1人の親友でもあり、谷原の野球仲間であり、村井の妹と仲がよく、浅見と同じく家庭教師をし、美穂子と付き合っていた。広沢の同級生である川本(夏菜)が「皆自分の見たいところしか見ないから」と言うように、それぞれにとっての広沢がいる。何事も器用にできて誰に対しても優しい広沢は、相手に合わせて自分の色を変え、相手が求める友人または彼氏を演じ続けていた。演じるというより、彼にとってはそれが当然だったのかもしれないが。全てにおいて受身であった彼の意志は、どこにあったのか。蕎麦よりカツカレーを選んだこと、美穂子に付き合ってほしいと告白したこと、就職はせず外国に行ってみたいと言っていたこと。それぐらいしか彼の意志を示すものは存在しない。