なぜ今「戦争と現代」を結ぶのか? 『あの星』『君と花火と約束と』が伝えるメッセージ

夏、時間、戦争。そんな要素を持った映画が、この夏に相次いで公開された。8月7日公開の『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』(以下、『あの星』)は汐見夏衛の小説、7月17日公開の『君と花火と約束と』は真戸香のライトノベルが原作。いずれの小説も映画と同様に、時間を隔てて「戦争」があった時代と現代を繋げ、落涙を誘って悲劇を繰り返さないようにしようと思わせる。そして、今を懸命に生きようといった気持ちを強くかき立てる。
『あの星』映画における“見事な改変”
高校で教師として働いている加納百合は、高校生だったころに1945年(昭和20年)の戦時中の日本にタイムスリップした経験があった。見知らぬ場所で戸惑っていた百合を助けたのが、佐久間彰という特攻隊員の青年。百合は戻って来た現代で、出撃して戦死した彰を思う気持ちを心に抱きながら、彰がなりたいと願っていた教師の道を歩んだ。
映画『あの星』は、同じ汐見の小説『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』(スターツ出版・以下、『あの花』)を原作に、2023年に公開された映画の続編だ。百合は、臨時的任用教員として赴任して来た大学院生の宮原亮から好意を抱かれる。彰の面影を持ち、魂も受け継いでいるように感じられる亮に百合は惹かれるが、彰のことを忘れてしまう気がして、亮の告白を受け入れられないでいた。
そこに現れたのが千代という名の老女。百合がタイムスリップした戦時下の日本で仲良しになった少女が、生き延びて今はホスピスに入っていた。百合は千代に、彼女が愛していた石丸という特攻隊員への思いをどのように振り切って、新しい人生を歩み始めたのかを聞く。そして、平和な今を生きている自分ができることは何かを探し始める。前作と同様に、戦争がもたらした永遠の離別という悲劇を感じさせてくれる映画だ。
原作の『あの星』(スターツ出版)は、実は映画と設定が大きく異なっている。百合は、高校生に設定されていた映画とは違って、中学生の身でタイムスリップした原作の『あの花』から続く形で、中学生として学校に通っている。
そこに転校してきたのが宮原亮という少年。彼には物心ついたころから、空を飛んだり百合の花に囲まれた少女が空を見上げていたりする夢を見ていた。転校先にいた百合がその夢に見る少女と重なり、亮は百合に惹かれていく。
過去に戦争をその目で見て恐怖を味わい、彰たちとの交流を経て離別の悲しみを知った百合は、クラス内で起こった葬式のまねごとをするいじめに、死を軽く扱うなと憤る。親の反対でサッカーを辞めようとしている亮には、せっかく平和な時代に生まれたのだから夢を諦めるなと叱咤する。やがて、亮が彰の生まれ変わりらしいと知って百合は亮に関心を抱くが、亮はそれが自分自身に向けてなのか、自分の中の彰に向けてなのかを迷い、いったん百合から離れる。
映画とは違って、亮をメインに進む形だが、人から自由を奪い、夢を奪う戦争を嘆き、平和であることをもっと大切にしようと訴えてくるところは、映画も小説も変わらない。前作を含めて映画から入った人も、原作を読むことで、自分を諦めないでいられる時代への感謝の気持ちを抱けるだろう。
映画は映画で、大空に打ち上がる花火を、百合が彰との思い出の丘から亮と共に見て、絆を深めていくシーンが実に美しい。福山雅治が、2人でいっしょにいられる幸せを歌った主題歌とも相まって、涙にまみれながらエンディングを迎えられる。メディア展開の際の“改変”がいろいろと話題になる昨今だが、この作品に限っては、原作のファンが観たり読んだりして裏切られることのない“改変”だと言えそうだ。
ユニークなのは、映画を観た人が同じ感動を味わうことができるよう、『ノベライズ あの星が降る丘で、君とまた出会いたい』(スターツ出版)を作者自身が執筆したことだ。映画と同様に、高校の教師となった百合が、特別授業として特攻隊員が残した手紙を生徒たちに朗読させ、大切な人を残して出撃する気持ちを綴った言葉から漂う無念さを、どこか他人事のようだった今の高校生たちに感じさせる場面が登場する。
映画では、冷笑していた生徒たちの顔つきが大きく変化した。ノベライズの読者も、81年を隔てて届いた言葉に、何かを感じ取ることができるだろう。
映画から企画が始まった『君と花火と約束と』
『君と花火と約束と』の映画は、『あの星』よりは原作に忠実だ。というより、もともとは映画の企画の方が先に立ち上がった。シンエイ動画の梅澤道彦プロデューサーが、時間とともに薄れていく戦争の記憶を風化させないために、新潟県長岡市で空襲の被災者を慰霊するために続けられている「長岡まつり花火大会」のことを映画にしたいと考え、真戸に小説の執筆を依頼した。コロナ禍を挟んで企画が動き出し、小説も「ガガガ文庫」(小学館)から刊行された。
高校に進学した夏目誠に、葉山煌という女子が接触して来たところから物語は始まる。煌は、一部の人しか知らない「まこつくん」という誠のあだ名を知っていて、いつか自分のために1枚の絵を描いてくれると言い出す。前は絵を描いていたものの、今はもう描いていなかった誠は、それは自分のことではないと伝えるが、煌に刺激されたこともあって、再び絵筆を取るようになる。
煌によれば、まだ幼かった頃に、ハルという名の祖母から「まこつくん」のことや、花火を描いた絵のことを聞かされたという。その絵を見た誠は、タッチもサインも自分が描いたものとそっくりだと感じるが、ずっと前から伝わる絵を自分が描いたはずがない。どういうことなのか。謎を探るため、長岡に引っ越すことになった煌と共に、誠も長岡へと向かう。
そこで不思議な体験をする。ハルが暮らしていたという家を訪れた誠の前にひとりの少女が現れたが、その姿はどう見ても戦時中の日本のもの。もしかしたらタイムスリップしてきたハルかもしれないと感じた誠は、彼女に現代の長岡を見せて回り、81年前に長岡で何が起こったのかを教え、そして花火を描いた絵を渡す。
ハルが過去に戻ることで、煌が孫として生まれ、絵が受け継がれるという円環が繋がったかに見えたが、そこにはちょっとしたズレがあった。実は、現代に来たのはハルではなく双子の姉のフユ。彼女が手にして戻った誠の絵が、ハルの手を通して煌に伝わったことが意味するのは、だったらフユはどうなったのかということ。長岡への空襲がもたらしたひとつの離別に、やりきれない気持ちが浮かぶ。そして同時に、幾つもの命の上に繋がれた現在があることに思い至って、精一杯に生きなければといった気にさせられる。
映画では、クライマックスに長岡の空を彩る花火が登場して、プロデューサーが意図した鎮魂の思いをかき立てられる。小説も同様。近年、特大の花火が打ち上げられるイベントとして有名になり、大勢の観光客が集まるようになっている長岡の花火大会だが、そこに込められた思いを映画や小説から受け取ることで、次からは違う気持ちを抱いて彼の地を訪れたくなるだろう。
◾️書誌情報
『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』
著者:汐見夏衛
価格:748円(税込)
出版社:スターツ出版
『君と花火と約束と』
著者:真戸香
価格:814円(税込)
出版社:小学館


























