絶望の書か、生存のヒントかーー『本を読めなくなった人たち』が描く、文章を売る商売の不都合な真実

4月23日のAmazon売れ筋ランキング「本」部門で47位にランクインしていたのが、稲田豊史による『本を読めなくなった人たち コスパとテキストメディアをめぐる現在形』(中公新書ラクレ)である。文章を売って生活している身としては、背筋が寒くなるような内容だった。
フリーランスになって10年目、現在もライターとして原稿を書いて暮らしている立場としては、読んでいて非常に暗い気分になる本である。本書はとっかかりとして、新聞をとっていないどころかYahoo!のトップページすら見ないという「ニュースにお金を払わない人たち」のエピソードから始まり、そこで現在のネットの状況を説明した上で、「本を読めなくなった人たち」が何を考えてどう行動しているのかを解き明かす。
読まない層のリアルと加速するテキスト離れ

そこから明かされるのは、現代の若者を中心とした「本を読めなくなった人たち」の生態だ。とにかく誰も文章を読まない。そもそも長文を読みたいと思っていないし、読まされたところで内容なんかわからないし、本なんかどう買っていいか知らないし、それで何か困ったこともない。長い文章は画像をAIに放り込んで、要約してもらったものを読めば充分。自分もなんとなく皮膚感覚で「そんな感じなんじゃないかな〜」と思っていたことが、稲田氏が行った多数の学生や関係者へのヒアリングと、各種のデータによって次々に裏付けられていく。
本書によれば、「本を読めなくなった人」の目の前には、日常的に長文を読むタイプの人には全く見えていない世界が広がっている。ニュースはXのタイムラインを流れてきたものをつまみ食いすれば十分で、リンクを踏んでも記事冒頭の要約程度しか目を通さず、どこのメディアが配信した誰の記事なのかも全く気にしない。読まれる記事といえば「他人の不幸」「エロ」「マンガ」「クイズ」ばっかりで、取材に時間や予算のかかる重ための記事なんか、時間の無駄だから目もくれない。情報は動画で摂取し、紙の本で読むのは自己啓発書やビジネス書のような明確なリターンが見込めるものだけ。一昔前の読書習慣をインストールした人間からすれば、「それでよくニュースを読んだと言えるな……」とか「ちょっとさすがに嘘じゃないのか」と言いたくなるようなエピソードが目白押し。だが、そんなことを言っている人間は、世間的にはもう老害なのである。
さらにそこに、ウェブメディアや出版社、書店といった「文章を売る仕事をしている人々」の混乱と当惑が加わる。なんせ、今まで自分たちが売り物にしていたものが、「別にいらないもの」「タダで読めて当然なもの」として扱われるようになってしまったのだ。記事を無料で読ませて広告料で稼ぐビジネスモデルはSNSのアルゴリズムとAIに振り回されて行き詰まり、書籍の一部をウェブで公開しても売り上げにはつながらず、書店のビジネスモデルは限界を迎えていることが、エビデンスつきで解説される。文章を売る商売にとって不都合すぎる真実が、裏付けをとった上で証明されていくのである。怖すぎる。
本好きの「聖域」すら否定する不都合な真実
本書の興味深い点は、本好きの立場からすると光明に見える独立系書店の人気や文学フリマの盛況も、このような状況を覆すものにはならないとされている点だ。「本好きが集う居心地のいいサロン」のように扱われがちな独立系書店や、同好の士が集うビッグイベントに育った文学フリマも、一歩そのコミュニティの外から見た時にどう見えるかはあまり意識していない。本書では、これらのコミュニティに対する世間一般の目線は相当に冷ややかであり、所詮は閉じた空間での盛り上がりに過ぎないことも明かされる。このあたりの内容は相当キツく、また「本読み」の自意識が世間にどう受け取られているかを明かしたデータとして貴重なものだと思う。
では書店やメディア関係者、ライターはどうすればいいのか。明確な答えは本書には書かれていないし、「こうすれば誰もが文章にお金を払ってくれるようになります」という模範解答があるなら、各社がもうとっくに試していることだろう。本書が明確にしたのは、皆が本を読み、正確な情報を知りたいと思っているというのは勘違いにすぎず、本を読むのはめんどくさいことで、そんなことは最初から誰もやりたくなかったということだ。一方で、スマホで動画を見るのは本を読むよりストレスが少なく、スルスルと情報を吸い取れることは本書の中で何度も指摘されている。
要するに、「文章を書いて生活したいと思ったら、今後は文章を書いているだけではダメだ」という、ここしばらく文筆業をやっている人たちの間で言われていることを裏付けるような内容なのだ。本書の中には「どういう条件がそろえば本を買う気になるか」という具体的なヒントも書かれているので、そのあたりをいち早く取り入れて活動すれば、まだひょっとしたらなんとかなるかもしれない。
とはいえ、文章で飯を食っている人間にとって、本書が「絶望の書」的な内容であるのには変わりがない。世の中の動きがこういう方向なのはわかっちゃいるけど、しかしこちとら文章を書く以外のことができないから、フリーライターなどというお先真っ暗な商売をやっているのである。いやほんと、やらなきゃダメなんですかね……動画とか……。今後の身の振り方を考える上でも、同業者の皆様は必読。また本好き、雑誌好きの方が読んでも、衝撃を受けること請け合いの一冊だ。
■書誌情報
『本を読めなくなった人たち コスパとテキストメディアをめぐる現在形』
著者:稲田豊史
価格:1,210円
発売日:2026年2月9日
出版社:中央公論新社
レーベル:中公新書ラクレ























