山村紅葉、65歳で小説家デビュー「ホストに食い逃げされても無駄じゃない」 執筆体験から同年代へのエールを送る

"サスペンスの女王"と呼ばれてきた女優・山村紅葉が6月11日、小説家としてのデビュー作『祇園の秘密 血のすり替え』(双葉社)出版に先駆けた取材会を行った。
本作は京都・祇園を舞台にした本格サスペンス。歌舞伎の名門一族を三代に渡り描き、伝統を継ぐ者の華やかさと閉鎖性、その裏の欲望と葛藤が交錯する物語だ。タイトルが示す"血のすり替え"の謎を軸に、運命が大きく反転するラストも読みどころとなっている。
集まった報道陣を前に、まず山村が口にしたのは「本当に書き上げられたんだ」という安堵。ネットやスポーツ紙で報じられても実感が湧かず、「自主出版詐欺なんじゃないか」と疑ったと冗談まじりに語った。
彼女が初めて小説に向き合った「65歳」という年齢は、小説家の母・山村美紗が筆を置き、この世を去った年齢でもある。本心では短編集や連載という形を望んだが「このタイミング(65歳)でないと意味がない」という編集者からの後押しで「焦りながら書いた」という。なお提示された締切は、前倒しで伝える"サバ読み"だったそうだが、本当に書き上げてしまい関係者を驚かせた。
物語の構想にかけた月日は約5年。それまで連載していたエッセイを終えた寂しさと、映画『国宝』から得た刺激が原動力となったという。幼い頃から親しんだ歌舞伎、20歳で母に連れられ通った祇園の置屋やお茶屋などを回想しながら「華やかな世界の裏にある葛藤や苦しみを書きたい」と考え、80~90代の元舞妓・芸妓にも取材を重ねている。
『血のすり替え』というタイトルは、奇しくも自身の"過去"と共鳴する。幼い頃から母に「あなたは拾ってきた子」と言われ、血液型も信じていたO型ではなく、A型だとブライダルチェックで判明。その瞬間は「やっぱり拾われた子だったんだ」と感じたと山村。しかし本作の執筆中、母が家電のトリックを描きながら原稿は手書きを貫いていたことを思い出した。
最終的に自分も消えるボールペンでの執筆に落ち着き、内側から母の影がよぎる。やがて書くスピードの速さや、読みやすい文章を編について編集者に「お母さんと一緒ですね」と言われ、胸が熱くなった。血をめぐる物語を書きながら、自らの血の繋がりを確かめた形となる。
一方で「(ミステリー作家である)母はいっぱい人を殺してますから。私はもう、殺すのはやめておこうと思いました(笑)」とDNAから距離を取った部分もあると告白。「どんな葛藤があっても、最終的にどの登場人物も幸せになってほしかった」と自分のスタイルを明かした。
また歌舞伎の家を三代にわたり描く物語は「どの人物を主役にしても成立するように書いた」という。女優として培った映像感覚から、本作の実写化への意欲も強いようだが、自身の出演については「女将になって孫が生まれた頃の、おばあちゃん役かな」と控え目な様子だ。
終盤、年齢を理由に挑戦をためらう同世代へのエールを求められた山村は、ひとつの"実話"を笑いを誘いながら持ち出した。ホストクラブのアフターで寿司を食い逃げされた話である。そして「無駄に思えたお金も時間も、年齢を重ねたからこそ滲む厚みになる。書けると思わなかった小説が65歳で書けたのだから、無理なことなんてない」とコメントし、さらに「趣味でも何でもいい、ぜひ挑戦してほしい」と重ねた。
母が筆を置いた65歳で、娘が筆を執る。『祇園の秘密 血のすり替え』は、受け継がれた"血"の物語であり、ひとりの女優が新たなスタートを手にした、その瞬間の記録でもあるのかもしれない。
■書誌情報
『祇園の秘密 血のすり替え』
著者:山村紅葉
予価:1,980円(税込)
発売日:6月17日
出版社:双葉社
























