福島の“地図”、なぜアニメ作品に? 『この世界の片隅に』片渕須直監督の新作『ふくふくの地図』に重なる“復興の道”

福島の“地図”がアニメに?

 福島の豊かさが溢れてくる地図が、福島を旅する楽しさを教えてくれるアニメーションになった。福島県が発行する総合情報誌「ふくしままっぷ」を題材にして、『この世界の片隅に』の片渕須直監督が手がけた短編アニメーション『ふくふくの地図』は、フランス人の女性が福島県内の様々な場所を巡る淡々とした展開を通して、文化や自然でいっぱいの福島へと見る人を誘う。

 「ふくしままっぷ」は、「風とロック」で知られるクリエイティブディレクターの箭内道彦が企画し、イラストレーターの寄藤文平が絵とデザインを担当して2016年に誕生した福島県の地図。可愛らしいイラストと文字によって、福島県内にある様々な名所や施設が描かれていて、眺めていても楽しい上に自分でも行ってみたいと思わせる、不思議な魅力にあふれている。2023年に賑やかさが増した「ひとつ、ひとつ、実現する ふくしままっぷ」にアップデートされた。

 福島県ではこの「ふくしままっぷ」をもっと知ってもらおうと、2025年に『ルックバック』の押山清高監督を起用した短編アニメーション『赤のキヲク』を作ってYouTubeで配信。評判となって再生回数も300万回を超えた。

 福島出身の女性が大学進学を機に上京し、就職もして頑張りながらもいろいろなことに直面する。もしかしたら意気消沈していたかもしれなかったが、葬儀のために帰郷して地元の良さを改めて感じ取り、また頑張ろうとするストーリーには、上京して漫画家として頑張る主人公を描いた映画『ルックバック』(2024年)の面影を感じさせるところもあった。福島の民芸品で可愛らしいフォルムで知られる赤べこが巨大化して怪獣と戦うシーンももあって、押山監督らしいアクションを楽しめるアニメーションになっていた。

 この「ふくしままっぷ」ブランドムービー第2弾として起用されたのが、『この世界の片隅に』(2016年)が評判となり現在は『枕草子』の清少納言を描いた『つるばみ色のなぎ子たち』を制作している片渕須直監督だ。「”まっぷ”を埋め尽くすように描かれた様々な文物のひとつひとつが、実は長い時の中で人の手によって作り出されてきたものであることに、あらためて気づかされました」と、『ふくふくの地図』のリーフレットに寄せたメッセージで「ふくしままっぷ」が持つ魅力をそう話している片渕監督。アニメーション『ふくふくの地図』は、そんな地図が現実を包み込んで、見る人を地図の中に入り込んだような気にさせてくれる。

 知人の結婚式に出るために福島に来たソフィーという名のフランス人の女性が、しっかりと行き先を書き込んだ地図をバスの中に置き忘れてしまって迷っていたところに、トコトコと赤べこが近寄ってきた。見ると背中に「ふくしままっぷ」を載せていて、開くと福島県内のいろいろな場所が、漫画やイラストのようなタッチで描かれていた。ソフィーはその「ふくしままっぷ」を見ながら、磐梯山に行こうとしたり猪苗代湖の湖畔を歩いたり、平伏沼でモリアオガエルを見ようとしたり喜多方ラーメンを食べたりしながら、目的の場所へと近づいていく。

 交通網や道路網が描かれている分けではなく、縮尺が確かな訳でもない地図だが、イラストで描かれたラーメンだったりリカちゃんキャッスルだったり三春滝桜だったりを眺めていると、そこに行ってみたい気になってくる。『ふくふくの地図』はそんな「ふくしままっぷ」の楽しさを、ソフィーという登場人物を通して教えてくれるアニメーションであり、行った先々でソフィーが見たり感じたりするエピソードを通して、福島の魅力に気づかせてくれるアニメーションになっている。

 キャラクター原案は片渕が映画にした『この世界の片隅に』の原作者のこうの史代。『この世界の片隅に』のすずさんのように、ほんわかとした雰囲気を持ったソフィーが、困ったり驚いたりしながら福島の文化や自然を感じ取っていく様子を、表情豊かに描いていて、見る人を引き付ける。音楽も『この世界の片隅に』と同じコトリンゴが担当。都会の喧噪とは違った福島のゆったりとした空気を感じさせてくれる。そんなソフィーの旅に導かれるようにして見ているうちに引きこまれる人が続出し、公開から1週間で再生回数が600万を突破した。

 最初は5分くらいを予定していたそうだが、「ふくしままっぷ」と福島のより多く紹介したい気持ちがあって、10分近くのアニメーションになった。それでも、ロケハンのために滞在した3日では回りきれないスポットが「ふくしままっぷ」には描き込まれている。3月24日に公開となった『ふくふくの地図』を見た人からは、今後も少しずつ継ぎ足していって、長編アニメーションにしてもっともっと多くの場所を見せて欲しいといった声が出ていた。すぐには難しそうなので、とりあえず「ふくしままっぷ」を手に入れて、自分であちらこちらを見て回るのが良さそうだ。

 『ふくふくの地図』は、2011年に発生した東日本大震災から15年という時に公開となった。3月5日に福島市で開かれた完成直前特別上映科に登壇した福島県の内堀雅雄知事は、「『ふくしままっぷ』がアニメーションとして鮮やかに彩り豊かに再現されていることに感動しました」と、地図がしっかりとアニメーション化されている点をまず評価。加えて、「嬉しかったのは、赤べこがソフィーの隣を歩きながら旅を楽しんでいくところです。15年間応援してもらいながら復興の道を歩んできた我々に重なるところがありました」と話して、震災から続いてきた支援の有り難さを感じさせてくれる作品になっていることを喜んでいた。

 同じ上映会に出席していた箭内も「福島の人間からすると、バスのカラーリングからオオサンショウウオのジェラートも見事に再現されていて、片渕監督の世界に福島を連れていってくれたようで嬉しいです」と、アニメーションが福島をしっかりと描いてくれていることを嬉しがっていた。

 『ふくふくの地図』は、「ふくしままっぷ」という他にあまり類を見ない楽しげな地図を、片渕監督やこうの史代、コトリンゴといった人たちのクリエイティブによって理想のアニメーションに仕立て上げた、これまた他に類を見ないユニークな作品と言えそうだ。

■『ふくふくの地図』
https://fukushimamap.jp/special-2/

【片渕須直監督 作品】『ふくふくの地図』 - PrefFukushima YouTubeチャンネルより

■『赤のキヲク』
https://fukushimamap.jp/special/

【押山清高監督 最新作】『赤のキヲク』 - PrefFukushima YouTubeチャンネルより

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