彬子女王殿下 × 三宅香帆が語り合う、漫画文化の奥深さ 『マンガ 赤と青のガウン』トークショーレポ

彬子女王殿下×三宅香帆トークショーレポ 

 彬子女王殿下が英国オックスフォード大学マートン・コレッジに留学された時の体験記『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP文庫)を、『プリンセスメゾン』『ブランチライン』などで知られる漫画家の池辺葵氏がコミカライズした『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』が新潮社から3月25日に刊行された。これを記念したトークイベントが25日にジュンク堂池袋本店で開かれ、彬子さまが登壇されて文芸評論家の三宅香帆氏と漫画についての感想や日本美術の特徴、良く読まれる本などについてお話された。

 「池辺先生がすごく心情を描かれるのがお上手でいらっしゃるんです」。漫画となった自著について彬子さまが抱かれた感想は、池辺氏の漫画が自身の文章の深いところまで読み取って、しっかりと表現してくれていることへの喜びだった。

 「側衛(身辺警護職員)が街で振り返った時にいなかったという時のちょっとした感情の揺れですとか、留学してから友だちがいなくて部屋に帰った時の寂しさみたいな、文章で書けば寂しかったというひと言で済むところのものを、池辺先生が上手に表現してくださっていて、より伝わりやすくなったかなと思います」。

 寂しさの表現は、扉を開けて自室に入った彬子さまが、眉根を寄せて口を歪め少しだけ上を向いているような表情が、ページの3分の1を使って描かれていて、ご心情が漂ってくる。言葉で埋めず余白を大きくとって表現しているところが、かえって読む人にいろいろと想像する余地を与え、感情を添えやすくしている。

『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』刊行記念トークイベントの様子

 側衛がいないと気づいた時も、コマの隅に彬子さまが描かれているほかは真っ白だ。このシーンについて、三宅氏が「独り立ちした時の寂しさと自由さが表現されている感覚があります」と話して、日本の絵画や美術にある余白の美が現れていることを指摘すると、彬子さまが日本美術について研究されてお詳しいこともあり、「『風神雷神図屏風』のように、大画面に風神と雷神だけを配置するようなものがあって、そういったところと繋がるものを感じます」と話され、トークイベントの参加者の感嘆を誘っていた。

 漫画を担当した池辺氏について、彬子さまは名前などについては「知ってはいましたが、実際に作品を拝読したことはなくて、決まってからいろいろと読ませていただいて、登場人物の心情をすごく豊に表現される方なので、お任せしたら間違いないだろうということを思いました」とのこと。池辺氏について熟知していた三宅氏が、「『赤と青のガウン』という作品がもともと好きだったので、漫画家に池辺先生が決まった時、もう新潮社史上最高のファインプレーですねと叫びました」と言ったとおり、記録としても貴重で漫画としても面白い1冊になったと言えそうだ。

 日本美術について研究されただけのことはあり、彬子さまのお話は、「応挙の『藤花図』とかもあんな風な藤はないですが、すごくリアルに感じます。『風神雷神図』も筋肉がすごく美化されていて、あんな風に人間の体は動かないけれどすごく力を感じます。リアルではないリアルさがあると思います」と続いた。三宅氏が日本の詩歌が長歌から五・七・五・七・七の和歌へと移って五・七・五の俳句へと至った話をしたことを受け、彬子さまが「余白を作ってそこに何かを感じさせる、人に想像させる」日本の表現の特徴についての話されたことで、いろいろと学べたトークイベントだった。

 そうした、日本の美術表現の最先端に当たるのが漫画だという三宅氏の指摘に、「大英博物館でも漫画を収集して展示もしています」と答えられた彬子さま。「現代の文化を紹介するということだけではなく、きちんと歴史の流れに位置付けたものとして収集しています。版画があってフォトブックがあって漫画になっていくという、出版文化の一例を示すものとして収集されていますね」と、英国で日本の漫画がどのように扱われているかについて話された。日本の漫画家や漫画好きにとっても聞きどころの多いイベントだったと言えそうだ。

 『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』は、各エピソードのタイトルに「第1話 烏羽色のはじまり」「第3話 柳色の救世主」といった具合に、すべて色を表す日本の言葉が使われている。「日本の色の名前にすることで、日本との繋がりであるとかイメージをしていただきやすくなると思いました」と彬子さま。「大学で色をテーマにした授業をしますが、英語ではなんとかブルーとかなんとかレッドと言わないと色だということが分からないんですが、日本だと柳色と言っただけで緑だなって分かります」と、それだけ日本人が色を大切にしてきたことだと考え、使ってみたことも話された。読みながら「枯野色」「老竹色」「茄子紺」といった色を想像してみるのも楽しそうだ。

 トークは、彬子さまが普段どのような本を読んでおられるかについても話が及んだ。「活字中毒だったのですごい量の本は読んできました。ジャンルは時代小説ですね。史学科でしたので、事実から新しいことを考えますが、その証拠がなければ語ることができません。ただ、歴史は勝者によって書き残されたものなので、どういう気持ちでそこに至ったかまでは分かりません」という彬子さま。そうした見えないところを描いた時代小説や歴史がテーマの漫画は、「関わった人たちが、どういう思いで最終地点に到達したかを描いているので、そんなことがあったかもしれないと考えるとワクワクします」とのことだった。彬子さまお勧めの歴史小説一覧などあれば教えて欲しいと思った来場者も多かっただろう。

 『マンガ 赤と青のガウン』は、原作の『赤と青のガウン -オックスフォード留学記-』が2015年に単行本で出てから、実に11年が経っての刊行となる。2024年に文庫化されるまででも9年がかかっている。三宅氏によれば、「Xで感想が出て、バズったりとか書店に並ぶようになった」とのこと。これについて彬子さまも、「ある日、本当にバズってますよという連絡が来て、なぜこのタイミングかも分からないし、つぶやいてくださった方もインフルエンサーみたいな方ではなくドイツ在住の日本人の方で不思議に思いました」と当時の心境を明かされた。

 ただ、これも書いておいたからこそ”発見”されたもの。「伊藤若冲は当時も人気があったのかしれませんが、あまりにアバンギャルドで日本の美術市場ではあまり評価されていない人でした。プライス(ジョー・プライス)さんが地道に集め続けたことで評価されて、今あれだけの人気になっているのも、残していただけたからこそです」という彬子さまのお言葉は、ご自身の本が再注目を集めて文庫から漫画化に至ったことも含め、何かを作り残しておくことの大切さを感じさせるものだった。

 最後に、漫画になったことによって期待されることとして、「漫画化すると対象年齢が10歳下がりますという話なので、若い世代の方に読んでいただけたらいいなと思っています」と話された彬子さま。「最近留学をしないというか、海外に出ることをためらわれるようです。難しい時代ではあると思います。英語も日本にいてオンラインのアプリとかで学ぶことはできるかもしれませんが、海外に出てたくさんの人たちと交流することで得られるものは絶対にあります。海外で勉強してみようかなって思う人が少しでも増えるのであればいいなという思いがあります」と述べられた。

 ご自身が、オックスフォード大学に留学されて女性の皇族では初めて博士号を取得され、海外の博士号取得は皇族として初という実績を持たれていることもあり、海外で得られた経験の貴重さについては強く訴えたかったご様子だった。漫画自体はまだ第1巻で今後も刊行が続く。続きが気になる人もいるだろう。「漫画を補完するように、本の方も読んでいただけるきっかけになればと思っています」と話されて、貴重なトークイベントを終えられた。

彬子女王殿下【左】と文芸評論家の三宅香帆氏【右】

■書誌情報
『マンガ 赤と青のガウン 第1巻』
原作:彬子女王・漫画:池辺葵
価格:1,540円(税込)
発売日:2026年3月26日
出版社:新潮社


■彬子女王殿下×三宅香帆氏のスペシャルトークイベントは、配信のアーカイブチケットが発売中
アーカイブ配信期間:2026年3月26日15時00分~2026年4月9日23時59分
※販売終了:2026年4月9日 12:00
オンライン視聴チケット:1,100円
書籍付きオンライン視聴チケット:2,310円
 
詳しくは以下のURLをご覧ください。
https://onlineservice.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70019-260325?srsltid=AfmBOoqjLxTzi6orsGUBaNV_nenpl2Up6SHsn79bM2vINuZCGetlKs3R

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