東野圭吾『クスノキの番人』のテーマとは? 家族をめぐる物語の背景にある問題

1月30日に映画『クスノキの番人』が公開される。東野圭吾作品の映像化は多いが、同作は初のアニメ化である。小説『クスノキの番人』(2020年)は、願いをかなえるといわれるクスノキの番人をすることになった青年をめぐる内容だ。そのファンタジー的な設定が、実写ではなくアニメがふさわしいと判断されたのかもしれない。
主人公の直井玲斗は、中古の工作機械をあつかうリサイクル業者で働いていた。だが、売りものに欠陥があると客に伝えたため、社長からクビを申し渡される。「誠実な商売がしたかっただけ」と反論するが、社長は相手にせず、未払いの給料や退職金を渡さなかった。職を失いバイトで食いつなごうとしたが、生活に苦しくなった玲斗は、もといたリサイクル業者に忍び入り、機械を盗んで売ろうと考える。自分を不当解雇した相手から、もらえるはずだったものをもらうだけだという理屈であり、罪悪感などなかった。だが、あっさり失敗して逮捕される。
拘留された彼のもとを弁護士が訪れ、依頼人のいう通りにすれば釈放されると告げられる。それを受け入れ、外に出て玲斗が会った依頼人は、彼の記憶になかった伯母の柳澤千舟だった。彼女から、月郷神社にある、願掛けすればかなうといわれるクスノキの番人をするように命じられる。断ったら、伯母が出した弁護士費用を払わなければならないのだから、引き受けるしかない。
この冒頭のエピソードに示されるように主人公は、正義感があるにしても短絡的なため不正を行ってしまった軽率な人物だ。教養があるともいえない。だが、番人となった玲斗は、クスノキへ祈念に訪れる人々と接するうち、次第に心持ちが変わっていく。
この小説で興味を引くのは、クスノキにあるらしい不思議な力や、夜に予約して訪れる人たちがする祈念の内容や意味が、なかなか明かされないことだ。玲斗に番人を命じる前は、柳澤家の当主でヤナッツ・コーポレーションという大企業の顧問でもある千舟が、番人を務めていた。だが、伯母は、祈念する人が入る以外は近づいてはならないクスノキの空洞でなにが行われているのか、新月と満月の夜が適しているという祈念とはなんなのか、主人公に教えない。「いずれわかる日が来る」などと返答するばかりだ。祈念にきた人たちに質問しても、知らない人に話したら「ご利益がなくなる」などと意外に口が堅い。このため、読者は、隠された謎への興味でページをめくることになる。
読み進むうちにわかってくるのは、これが家族をめぐる物語であるということだ。妻子持ちとの不倫で相手の認知なしに玲斗を生んだ母が若死にした後、彼は独り立ちするまで祖母と暮らしていた。亡き母の異母姉である千舟は、長く交流がなかったのになにを思って今頃、甥にかかわろうとしたのか。
祈念に訪れる人のなかでは、佐治寿明・優美の父娘がクローズ・アップされる。家族に内緒で祈念にくるなど、不審な行動をとる父に対し優美は浮気を疑っている。玲斗は、父のことを探ろうとする優美の行動に巻きこまれていく。
一方、和菓子メーカーの社長の子である青年・大場壮貴は、常務に連れられてしかたなく祈念にくる。どんな事情があるのか。
登場する主要な家族それぞれが密かな事情を抱えている。また、生きている人だけでなく、死んだ人が物語で重要な意味を持つ。玲斗と千舟は、亡き母=異母妹を介してつながっている。佐治寿明には二歳上のすでにこの世を去った兄がいて、彼の死後に母(優美の祖母)は認知症になったのだった。大場壮貴の社長だった父も、もう亡くなっている。
そして、この小説は、継承の可否をテーマにしている。千舟は、クスノキの番人を玲斗に継がせようとする。一方、彼女は、ヤナッツ・コーポレーションの功労者だが、今は顧問に過ぎず、現経営陣は彼女を退任させ、その方針を受け継がない方向に進もうとしているようだ。佐治寿明の死んだ兄は、彼らの父と断絶した立場だったが、母は隠れて会っていたらしい。また、大場壮貴は、亡き社長の息子として神輿にかつがれ、後継者争いの当事者となっていた。どの家族も、故人の存在が現在に影響を及ぼしている。
なにかが受け継がれるか、伝わるかどうかという問題を、作中の家族、会社それぞれが抱えているのだ。玲斗は、クスノキの役割はなにかと考え、やがて祈念の意味を知り、人間として成長する。それは、見習いを脱し、真の番人になることでもあるだろう。
『クスノキの番人』の魅力的な設定を一作だけで終わらせるわけがない。再び玲斗が登場する第二作『クスノキの女神』(2024年)が発表されており、同作に登場し物語の一部だけが書かれた絵本が、実際に『少年とクスノキ』(2025年)という絵本になり物語が完成されている。
『クスノキの番人』は、ファンタジー的設定であると同時にミステリ的要素もある。だが、クスノキの謎を解くことで、人間にとってクスノキ以上に大切なものがあると気づくところに妙味がある。読めば、クスノキの空洞に入りたくなるだろう。















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