「適切な運動習慣があれば、病気の遺伝リスクは克服できる」 樋口満に聞く、健康に楽しく老後を過ごすためのヒント

樋口満に聞く、健康に老後を過ごすヒント
『健康寿命と身体の科学』著者の樋口満に聞く、健康に楽しく老後を過ごすためのポイントの画像1
樋口満『健康寿命と身体の科学 老化を防ぐ、50歳からの「運動・食事・習慣」』(ブルーバックス)

 「年を取っても元気な人」には、じつは科学的に共通する特徴がある——早稲田大学スポーツ科学学術院名誉教授・樋口満の『健康寿命と身体の科学 老化を防ぐ、50歳からの「運動・食事・習慣」』(ブルーバックス、2025年)は、その“共通点”を、日本人のミドル層~シニア層の調査研究や最新の健康科学の知見にもとづいて、具体的な行動指針へ落とし込んだ一冊だ。

 このたび、YouTubeチャンネル『【科学の教養】ブルーバックスチャンネル』に著者の樋口が出演した動画が公開された。フリーアナウンサーの赤井麻衣子が聞き手となり、老化の仕組みの解説から健康のために気をつけるべきポイントの紹介、さらにはおすすめの運動法の実演まで含む充実の内容となっている。

 リアルサウンド ブックでは本動画の撮影現場を取材。健康寿命の考え方や、健康を左右する食事や運動のポイントをピックアップしてお届けする。

 

健康寿命を延ばす最高のトレーニング法「ローイング」とは?/自宅で楽に「ロコモ」「サルコペニア」予防/病気の遺伝リスクを減らす運動の秘訣…健康科学者・樋口満#1【BLUE BACKS+】
【早大名誉教授が教える】健康をキープする「最強の食事」/コーヒーが運動効果を高める/老化はなぜ起きる?/「夜型」が危険な理由/スポーツ観戦の効用…健康科学者・樋口満#2【BLUE BACKS+】

健康寿命とは?

『健康寿命と身体の科学』著者の樋口満に聞く、健康に楽しく老後を過ごすためのポイントの画像2
樋口満氏

――まず、「健康寿命」とは何なのでしょうか? 平均寿命とは違うのでしょうか。

樋口:平均寿命というのは、「生まれた人が平均して何歳まで生きるか」を示すものです。一方で健康寿命は「何歳まで健康に生きられるか」を指すもので、日常生活を自分の力で制限されることなく過ごせるかどうかが目安になります。

 平均寿命と健康寿命の差が大きいほど支援や介護が必要な期間が長くなるわけで、この差を短くしていく、健康に過ごせる期間を長くしていくことが重要になります。

 日本の介護保険制度では「要介護2」の認定を受けるまでを「健康」とするという指標もあるのですが、要介護2から亡くなるまでの期間はかなり短いです。逆に65歳を超えてから要介護2までは長く、グラデーションがある。

 それで私は、動楽寿命/元気寿命/自立寿命、というふうに独自の区分を考案しました。自立しているというだけでなく「楽しく身体を動かせるか」を基準としているのが動楽寿命です。ここを意識して「動楽」の状態を長くキープできれば、病気にならないだけではなく自分のやりたいことをやれる、幸福な老後につながると思います。

――そもそも生き物はなぜ老化し、寿命があるのでしょうか?

樋口:老化の理論は何百もあると言われるくらいで、さまざまな要素が絡み合っています。その中でよく言われるのは活性酸素による「酸化ストレス」で、体がさびついて機能が低下していく、という考え方です。活性酸素がDNAを傷つけたり、細胞の機能を低下させてしまうんです。

体力の核は“心肺”と“筋力”

『健康寿命と身体の科学』著者の樋口満に聞く、健康に楽しく老後を過ごすためのポイントの画像3
赤井麻衣子氏(左)、樋口満氏(右)

――本の中で「健康寿命の正体は体力」とありましたが、この「体力」って具体的には何なんでしょうか。

樋口:体力って、分かったようで分からない言葉なんです。たとえば相撲で「あの力士は体力がある」と言うとき、体が大きいとか力が強いというイメージが先に来ますよね。

 でも健康と強く結びつく体力を考えるなら、その中心は「心肺体力(全身持久力)」と「筋力」です。もちろん他にも体力を構成するものはあって、例えば柔軟性も大事な要素ですが、健康寿命という観点でまず押さえたいのは心肺体力と筋力の二つです。心肺体力が上がると生活習慣病にもなりにくくなります。

――体力を高めるための運動は、どれくらい・どんなふうに始めればいいですか?

樋口:ひとつの目安として、厚労省が「運動習慣あり」としている基準があります。1回30分以上、週2回以上、それを1年以上続けている。まずはそこに乗ることを目標にすると分かりやすいと思います。

 ただ、いきなり頑張ろうとすると挫折しやすいので、まずは身体活動全体を増やすことを意識すると良いです。身体活動には、意識してやる「運動」と、生活の中で動く「生活活動」が含まれます。通勤で歩く、階段を使う、家事でこまめに動く。そこを増やすだけでも意味があるんです。

 年齢を重ねるにつれて体力が下がっていくことは残念ながら避けられません。70代になっても20代の頃と同じ体力を維持するようなことはできない。しかし、年齢に関係なく「今より上げる」「下り方をゆるめる」ことはできます。

 特に体力が低い人ほど、少し運動するだけで効果が大きい。一方で、体力が高い人が追い込みすぎると今度は故障につながることもあるので、注意が必要です。

 体力をつけても運動習慣がなくなるとまたすぐに衰えてしまうので、とにかく続けることが重要です。続けるためには楽しむことが大事で、一緒に運動する仲間を見つけられると無理なく楽しく続けやすいと思います。

運動しても飲酒や喫煙は帳消しにならない

『健康寿命と身体の科学』著者の樋口満に聞く、健康に楽しく老後を過ごすためのポイントの画像4

――体力を高めるためには食事も大切かと思いますが、何を意識すればいいでしょうか?

樋口:そうですね、運動は大事ですが、そのベースにあるのはやっぱり食事なんです。筋肉を増やすと言っても、筋トレだけやって筋肉が増えるわけではない。材料が必要で、食事で筋肉のもとになるものをしっかり取らなければいけません。さらに、体がいいコンディションでないとトレーニング自体が続かない。だから食事は「運動の土台」なんですね。

――どんなものを食べると良いですか?

樋口:「何を食べればいいか」を単品で考えるより、バランスで考えることが大切です。主食・主菜・副菜の組み立てで、必要なエネルギーやタンパク質を確保しつつ、体の調子を整える栄養素もきちんと入れる。特に野菜やキノコなどの副菜は軽視されがちですが、ビタミンやミネラルなど、体の調子を整える栄養素を多く含みます。

――日本食は体に良いという話もありますが。

樋口:はい、日本食は健康に良いことが分かっています。ただし日本食と言っても「お茶漬けとお漬物だけ」のように質素であっさりしたもののことではなく、納豆や豆腐、魚、野菜、海藻、キノコなどの食材をバランスよくしっかり食べることが大事です。

――お酒や煙草などはやはり健康に悪いでしょうか。日常的に運動していれば大丈夫でしょうか?

樋口:ちゃんと運動を継続している人は心肺体力が高く、生物学的年齢が実際の年齢より若い傾向がありますが、残念ながら運動による影響よりも飲酒や喫煙による影響の方が大きいです。いくら運動したり栄養に気を使っても、悪影響を相殺することはできません。

 特に何十年も煙草を吸い続けている人は生物学的年齢が相当進んでいます。お酒も同じで、飲み過ぎの人は生物学的年齢が進む傾向があります。

――お酒の悪影響を少しでも抑えるためにおすすめのおつまみはありますか?

樋口:おつまみは、やっぱり野菜を取るのがいいのと、あとはナッツがおすすめです。ナッツは手軽に食べられるし、抗酸化機能の働きも期待できます。逆に、焼肉なんかで脂の多い肉をたくさん食べてお酒を飲んで、野菜を取らない、というのはよくない。美味しいんですけどね。特に男性は、野菜や果物をあまり取らない傾向があるので、意識して補ったほうが良いです。

遺伝の影響は?

『健康寿命と身体の科学』著者の樋口満に聞く、健康に楽しく老後を過ごすためのポイントの画像5

――運動・食事・生活習慣について気をつけるべきポイントをお伺いしてきましたが、病気のなりやすさは遺伝の影響もあると聞きます。

樋口:はい、遺伝子によって糖尿病になりやすいとか、脂質異常症になりやすいといったように病気になるリスクは遺伝子の影響も受けます。

 ただし、病気によっては遺伝的にリスクが高い人でも、適切な運動習慣によって心肺体力を高めることでリスクを克服できるという研究結果も出てきています。

――最近は遺伝子検査も少しずつポピュラーになってきている印象がありますが、これからは自分の遺伝的リスクを把握した上で生活習慣の方針を立てるようになっていくんでしょうか?

樋口:将来的にはそうなるかもしれませんが、遺伝子検査はまだまだコストが高いのでなかなか出来ないと思います。ではどうすればいいかというと、自分の親や親戚がどんな病気になったことがあるかを見ることです。遺伝子検査をしなくても自分が遺伝素因を持っているか推測でき、何に気をつければいいか考えることができます。

――『健康寿命と身体の科学』はどんな方に読んでもらいたいですか?

樋口:基本的には、すべての人に読んでいただきたいです。特に自分の健康に不安がある人は、これからぜひ読んで実践してほしい。それから、すでに運動している人も、読んでいただくといい。自分がやっていることに、どういう科学的根拠があって、何が良くて、どこを調整するとさらに良くなるのか、その理解が深まると思います。

■書誌情報
『健康寿命と身体の科学 老化を防ぐ、50歳からの「運動・食事・習慣」』
著者:樋口満
価格:1,210円
発売日:2025年3月21日
出版社:講談社
レーベル:ブルーバックス

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる