異世界YouTube「遷移圏見聞録」公式ガイドがヒット! 「どこかで見たことがある」映像表現の可能性とは?

12月11日のAmazon売れ筋ランキングで4位に浮上していた本が、『遷移圏の歩き方』である。YouTubeチャンネル「遷移圏見聞録」の公式ガイドブックだ。
YouTube発の異質な本
YouTube/YouTuber発の書籍が刊行されるようになって久しい昨今。大抵はYouTuberのタレント的な魅力にフォーカスした内容の本が多いが、『遷移圏の歩き方』は少々趣が異なる。YouTubeチャンネル「遷移圏見聞録」に登場する「遷移圏」と呼ばれる異世界のガイドブックなのである。
「遷移圏見聞録」は、タイトルの通り異世界である「遷移圏」での生活を、動画の形で紹介するチャンネルである。遷移圏は我々の住む日本とどこか似ているものの、何かが絶妙にズレた違和感のある世界となっており、さらに名所や風習、独特の生態系や食文化が存在する模様。それらの断片が、9人の運営メンバーが製作した動画として公開されている。記事執筆時点で153本の動画を公開、チャンネル登録者数は26.6万人となっている。
このチャンネルで断片的に紹介されてきた遷移圏について体系的に紹介したのが、『遷移圏の歩き方』である。「そもそも遷移圏とは何か」という基礎的なところから解説され、遷移圏内の国家である「八島連邦」の各エリアのガイドを掲載。さらに巻末には「遷移圏への行き方」やスムーズな旅のための指南も掲載されている。
本書によれば、そもそも遷移圏とは多数に枝分かれした並行世界の分岐軸の間に広がった保管領域であり、並行世界と並行世界の間に存在するため、複数の世界からの干渉を受ける。そのため遷移圏は、我々が住む世界(遷移圏見聞録では「ドムシアット」と呼ばれる)と、全くの異世界の生物や風習、文化が混じり合った世界となっているのだ。
AI使用の新しい可能性
本書はあくまで「遷移圏が存在する」という前提で書かれたものであり、徹頭徹尾遷移圏のガイドとしての内容に終始している。普通の感覚だとどこかにYouTube製作陣のインタビューやメイキングなどを入れたくなりそうなものだが、そういった要素は皆無。あくまでガイドブックという、清々しい作りとなっている。
一読して驚いたのは、遷移圏に関する設定(あえてこう書く)の量である。遷移圏の成り立ちからそれぞれのエリアに存在する衣食住の文化、独特な形状の生物や地図・建物に至るまで、膨大な設定が一冊にまとまっている。ビジュアル面に関してはおそらくAIを使用したと思われる画像もそれなりの量が使われているが、これに関してもAI使用の新しい可能性を感じさせるものだと思う。
ビジュアル面に関して興味深いのが、「どこかで見たことがあるような気がするが、よく見るとどこでも見たことがない」というラインに収まっている点だ。遷移圏は「我々の住む世界線と、他の世界線との間にあるグラデーション的なエリア」ということなので、「どこかで見たことがある」というラインに収まっているのは設定面から見ても納得感がある。
異世界へのパッションを感じさせる力作
と同時に、「どこかで見たような気がする異世界」は常に人気のあるジャンルでもある。廃墟や九龍城砦、『千と千尋の神隠し』に近年のサイバーパンク系諸作品などなど、我々が日々目にしている現実と非現実の間のような世界に惹かれる人は数多い。そんな異世界の文物を、膨大な設定をバックボーンとして用意しつつエンターテイメントとして紹介するYouTubeという建て付けは、思いついたとしてもなかなか実行に移すのは難しいだろう。このチャンネルが運営できているという点だけでも脱帽である。
さらに言えば、『遷移圏の歩き方』に感じるのは、「好きでやっている」という匂いだ。本書は各要素についてかなりテキスト量が多い本であり、さらにそれぞれの設定の内容に関してはしっかりと密度がある。これだけの量をYouTubeのためだけに用意するというのは、並大抵のことではない。「自分たちが考えた異世界の設定を考えるのが楽しい!」というパッションがなければ、これだけの仕事はなかなかできないのではないだろうか。
というわけで、「YouTubeチャンネルの設定資料集」という珍しい内容になっている『遷移圏の歩き方』だが、SCP的な面白がり方もできるところがあり、間口は意外に広い本である。個人的にあまりYouTuberらしいYouTuberは見ない方なのだが、こういった「異世界の設定を作り込む」方向に向かっているものもあると知り、YouTubeの裾野の広がり方に驚いた次第である。遷移圏見聞録のファンはもとより、「最近のYouTubeはよくわからない」と感じている人にもオススメしたい一冊だ。「今のYouTubeってこんなことになってるの!?」と、驚くこと請け合いである。
■書誌情報
『遷移圏の歩き方 遷移圏見聞録公式ガイドブック』
著者:遷移圏見聞録
価格:2,090円
発売日:2025年12月10日
出版社:CEメディアハウス
























