『とんでもスキルで異世界放浪メシ』『追放者食堂へようこそ!』……異世界×グルメ作品、人気の背景は?

『とんでもスキルで異世界放浪メシ』に『追放者食堂へようこそ!』といった異世界グルメ小説のコミカライズ最新刊が相次ぎ刊行。面白そうな冒険や戦いのストーリーと美味しそうな料理で誘ってくれる。TVアニメも好評なこれら異世界グルメ作品のどこが人を惹きつけるのか?
ソーセージのポトフに豚肉の生姜焼きにカツ丼に炒飯。現代人の誰もが普通に食べている庶民的な料理が、異世界ファンタジーの世界ではとてつもない美食となって人々の舌と胃袋を魅了する。例えば7月25日にコミカライズ最新の『とんでもスキルで異世界放浪飯11』(ガルドコミックス)が発売された「とんスキ」シリーズ。江口蓮原作のライトノベルが原作で、コミカライズは赤岸Kが担当しているが、描かれる料理がどれも美味しそうでよだれが湧いてくる。
何しろその世界で伝説の魔獣として恐れられているフェンリルから従魔になってやると言われる美味しさだ。これほどまでの凄さの秘密は、やはり現代から持ってこられる調味料や調理器具が、ファンタジー世界の素っ気ない味を深くて濃いものにしているところにあるのだろう。
物語は、勇者として異世界に召喚されたサラリーマンの向田剛志(ムコーダ)が、勇者のようなスキルは持っていないと思われこのままではろくな扱いは受けないと、独り立ちするところから始まる。もっとも、このスキル「ネットスーパー」が実は凄かった。文字通りに現代と繋がっているネットのスーパーマーケットを異世界でも自在に扱える能力だったのだ。
ムコーダは王様からの手切れ金を使って現代からカセットコンロや食材、調味料を取り寄せ、旅の道中を護衛してくれている冒険者たちにコンソメスープでソーセージなどを煮込んだポトフを作り、道中で倒したレッドボアを使って生姜焼きを作って食べさせる。これが大好評。美味しそうな匂いが伝説の魔獣と恐れられているフェンリルまで呼び寄せてしまう。
食わせろと要求するフェンリルにムコーダが生姜焼きをふるまうと、すべて平らげてしまった上に自分を従魔にしろと要求し、かわりに3度の食事をふるまえとも言ってそのままムコーダに付いていってしまう。いわば最強の戦力を味方につけたムコーダは、フェルと名づけたフェンリルに強いモンスターを狩ってもらってその肉を食べさせ、貴重な素材を金に換えつつ冒険の旅を続けていく。
2023年に放送されたTVアニメの第1期では、こうした食事のシーンが美味しそうと評判になった。唐揚げやメンチカツといった現代人も大好きな料理が繰り出される度に、同じメニューを食べたいと思う人を増やして盛り上がっていった。ロックバードやオークといったモンスターでも鶏や豚だと思えばあとは調理と味付け次第。そこで繰り出される生姜焼きのタレやミートソース缶といった現代の便利な調味料が、異世界の人にも魔獣にも道の味となって至高の味わいをもたらし、読者やアニメの視聴者にも喜びのお裾分けをもたらすのだ。
「小説家になろう」での連載を経てオーバーラップノベルスから刊行中の原作小説最新刊『とんでもスキルで異世界放浪メシ 16 白身魚のムニエル×海竜の葬送』は、巨大なリヴァイアサンの解体に挑むストーリーに魚の唐揚げやドラゴンのステーキといったメニューが絡んで、食が旅を楽しくしてくれる感じを伝えてくる。コミカライズの最新第11巻は、レッドドラゴンの偽者が現れた謎に挑み、ゾンビでいっぱいのダンジョンに挑戦する冒険を描きつつ、ネットスーパーから取り寄せたパエリアの素を使った海の幸ぎっしりのパエリアを作って、目にも美味しそうな感じを与えてくれる。
次にどんなメニューが飛び出すのか。それを異世界の人や魔獣や神様たちはどう味わい、どう驚いて喜びをお裾分けしてくれるのか。そんな楽しみがファンを誘って人気となっているのだろう。2025年10月からは待望のTVアニメ第2期がスタート予定。繰り出される冒険と料理の数々が今から楽しみだ。
オーバーラップノベルスから刊行の君川勇樹のライトノベル『追放者食堂へようこそ!』シリーズを原作に、つむみがコミカライズしているシリーズの最新巻『追放者食堂へようこそ!10』(ガルドコミックス)も7月25日に発売。こちらのシリーズはTVアニメが7月から放送中で、カツ丼に炒飯にエビフライ定食といったやっぱり現代人も大好きなメニューが繰り出されては、観る人の次に食べるメニューを左右している。
主人公のデニスは「銀翼の大隊」という超一流の冒険者パーティーに所属していたLv.99の冒険者だったが、剣を振るったり魔法を繰り出したりといった活躍を見せず後衛としてメンバーを支えているだけの人間と思われ、隊長のヴィゴーによって追い出されてしまう。それならそれで構わないと、デニスは離れた街に自分の店「冒険者食堂」を構え、そこで料理を振る舞って評判を取るようになっていく。
デニス自身が追放された身である上に、店の常連となるのが女性だからとぞんざいに扱われてきた剣士のヘンリエッタ、美少年で実力もあるが自信過剰な点を疎まれていたビビア、所属していたパーティーのブラックな労働環境に疲れ果てていたバチェルといった、世間になじめず追放された者たちばかり。「追放者食堂」というタイトルもこれが元になっている。挫折した追放者たちがデニスの出す料理で気力を取り戻していく様子が、伝わってくる美味しそうな感じと共にコミカライズの読者やアニメの視聴者も楽しませてくれる。
小説版を読んでいくと、デニスが奴隷の身から救い食堂で働いてもらうようにしたアトリエという少女が、重要な鍵になっていることが解るが、TVアニメの方では魔法を扱う貴族の令嬢だったことが解ったばかり。小説版では古代に作られた自動人形の少女が絡んできたり、後継者争いに巻き込まれ追われる身となった王女のエステルが食堂に逃げ込んで来てカツ丼に癒されたりといった展開になるが、コミカライズでエステルやその側近たちがそのままの身分でデニスたちと関わってくる。
コミカライズの最新刊では、エステルが国民にお弁当を配ると言い出し、自分で配り始めた先で寝たきりのティアという少女と出会う。小説版とは違った優しい展開になりそうで、デニスが作る料理ともどもファンの興味を先へと誘ってくれそうだ。
異世界グルメでは、龍が存在している世界で龍を獲る人たちを主人公にした桑原太矩の漫画『空挺ドラゴンズ』シリーズの最新刊『空挺ドラゴンズ20』(講談社)も8月6日に出たばかり。巨大な龍と戦う冒険ストーリーと平行して、獲った龍を調理して食べるシーンが登場してその美味しさを想像させている。最新刊では、龍の脂肪をクリーム状にして砂糖や果物を加え雪で冷やしてアイスクリームを作ったり、龍肉やザワークラウト、チーズ、ザワークラウトを挟んだサンドイッチを作ったりする。これからも、龍という架空の存在を味わってみたいと思わせるような料理が描かれ、作品世界への関心を引っ張り続けてくれそうだ。




























