道尾秀介『I』は読む順番で結末が変わる? “体験型”作品目立つ文芸書ランキング

体験型ミステリの先駆者、道尾秀介『I』

オリコン週間文芸書ランキング

 2025年11月第4週のオリコン文芸書ランキングは「この作家、このシリーズがやはり強かった」と思わせる作品が目立つ。まず第3位には宮島未奈の<成瀬>シリーズ第3作にして完結編の『成瀬は都を駆け抜ける』(新潮社)がランクイン。更に第5位には湊かなえの『暁星』(双葉社)が入っている。『暁星』についてはこちらのインタビュー(湊かなえが見つめる“宗教2世”のジレンマ「身近な問題だからこそ誰もが知りたいはず」)で湊自身が「自分にとっての勝負作にするぞ」と語っているが、まさにその思いがランキングの結果に反映されている。

 さて、今回新たにランクインした作品の中で特に注目したいのが、第6位にランクインした道尾秀介の『I』(集英社)だ。この小説は変わった作りをしている。本文では二つの章の物語が上下逆さまに印刷されているのだ。この章を読む順番は読者に委ねられているが、順番によって物語の結末は大きく変わることになるという。道尾は以前にも集英社で『N』という作品を発表し、ベストセラーになっている。『N』も章の順番を読者が自由に組み替えながら読み進むことで何通りもの物語を一冊で楽しむことが出来る小説だった。

 『I』『N』以外にも道尾秀介は“体験型ミステリ”というべき作品を多く発表している。文藝春秋より刊行されている<いけない>シリーズは各編の最後に一枚の絵や写真が挿入されるという仕掛けが施された作品集。講談社の『きこえる』では作品内にQRコードが埋め込まれていて、スマートフォンをかざすと音声が聞こえるような仕掛けがある。文字を読むだけではなく、視覚や聴覚にも訴える様なギミックで読者を楽しませる小説を書く事に道尾は力を入れているのだ。

 こうした道尾の“体験型ミステリ”への拘りは、他の文芸作品、例えば現在ブームのホラーにも通ずる。現在もオリコン文芸書ランキングの上位にランクインしているホラーミステリ作家・雨穴の『変な地図』(双葉社)など<変な>シリーズは作中に図版やイラスト、地図などが多数掲載されており、それらを見ながら謎を解く体験を読者は楽しむ。いわゆる“モキュメンタリーホラー”と呼ばれる作品にも、絵やイラストなど通常の小説の文章とは違う情報を読み解く“体験型ミステリ”に近いものもある。道尾の『I』や雨穴の<変な>シリーズのヒットからは、文字以外のメディアも駆使した“体験”を読書に求めている傾向を改めて感じさせる。

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