湯山玲子×聖児セミョーノフが語る、『三文オペラ』の真のおもしろさとは? 歌舞伎町ホストクラブで開催された異例の読書会レポ

出版不況が叫ばれて久しいが、本を読むのが好きで、語りあいたいという人たちが世の中から消えることはない。
たとえば、おしゃべりカルチャーモンスターの肩書を掲げる湯山玲子が主宰となり、本やマンガ、ときに映画を通じて世の中の「本当のところ」を語りあう【ワルい子のためのブッククラブ】。
そして、ホストクラブのみならず、現役ホストが接客する歌舞伎町唯一の書店「歌舞伎町ブックセンター」を経営するなど、文化的な活動でも知られる手塚マキ。彼が率いるSmappa!Groupと、山本多津也率いる日本最大級の読書会イベント【猫町倶楽部】がコラボして開催される【文化系ホストクラブ】。
その三者がコラボレーションしたリアルイベントが11月上旬、都内で行われた。
……ややこしく聞こえるかもしれないが、つまり、おしゃべりカルチャーモンスター×文化系ホスト×あまたの読書好きが一堂に会して、課題図書について語りあったのである。もう、この説明だけで、濃い。濃すぎるのに、その課題図書はなんと『三文オペラ』。2022年には生田斗真主演で舞台化された、ドイツの作家ベルトルト・ブレヒトによる戯曲で、今年12月17日より音楽劇『三文オペラ 歌舞伎町の絞首台』が上演されることも決まっている。そのプロデューサーと音楽監督をつとめるのが湯山玲子ということで、課題に決まったわけなのだが。
ロンドンでも札付きの悪党メッキースが、乞食の元締めをして上前をはねる悪党ピーチャムのひとり娘と結婚したことからはじまるピカレスクロマン。300年以上読み継がれ、愛され続ける物語について語りあうテーブルに、湯山が飛び入りで参加するなどしながら、解釈を深めていった。
読書会終了後は、舞台で主演を務める聖児セミョーノフをゲストに招いてトークイベントが開催。その一部を、ここに抜粋する。
※座談会形式にまとめるため、実際のトークを再編集しています。
『三文オペラ』の真のおもしろさとは?

湯山玲子(以下、湯山):ブレヒトというのは演劇界に燦然と輝く才能なんですよね。みなさんが今普通にご覧になっているお笑いや映画のいうなれば違和感や阻害な゛とのクールなセンスは、もとをたどればすべて、ブレヒトの影響を受けているともいえる。知らないうちに私たちはブレヒトの影響をその身に浴びて世界を生きているということなんです。
ただ、そのネタ本ともいえる原著の翻訳は、その時代の「悪」の様相とともに変化してしかるべき。今度、12月に上演する音楽劇『三文オペラ 歌舞伎町の絞首台』では、セリフや歌にこめられたものを時間をかけて一つひとつ精査しながら、再構築していこうと思っています。
聖児セミョーノフ(以下、聖児):その舞台で、主人公メッキース役を演じる聖児セミョーノフです。今、稽古の合間に駆け付けたわけですが……いやあ、舞台って大変なんですよね。音楽というのは実は読書と少し似ていて、譜面を見ながらただ演奏する、文字をたどってただ読むだけなら、それほど難しいことではないんです。でも、芝居をするとなると、そこに書かれていることを全部覚えて、意味をつぶさに理解したうえで、動きを加え、人物としてたちあがってくるものを肉体的に再現しなくちゃいけないですから。
湯山:本当に難しいですよね。『三文オペラ』の舞台は、私はこれまでたくさん見てきたけど、実はあんまり腑に落ちていなかったのです。このピカレスクロマン、エンディングは唐突で、ストーリーは単純。しかしながら、そこに乗ってくる音楽がもの凄く良い。有名な『マック・ザ・ナイフ』だけではなくて、名バラード、そして、後世のエクスペリメンタルミュージックを予感させるような曲が入っている。
聖児:そもそも『三文オペラ』って、ベルリンのシッフバウアーダム劇場のこけら落とし公演のために予定されていた作品がとん挫して、かわりに、あわてて書かれたものなんですよね。作曲家のクルト・ヴァイルと一緒に「初日に間に合わせるためになんとかやっちまうぞ! 金もほしいし、納得のいくようにもつくりたい!」っていう、エネルギーがほとばしっている。だから、でたらめでしっちゃかめっちゃかな内容にもかかわらず、ところどころ、鋭く心に刺さる言葉がちりばめられているし、ストーリー展開が勢いのあるその言葉によってぐっと引き締まるんですよ。
湯山:『闇金ウシジマくん』みたいなところがあるんだよね。信頼できるのは金。本音の欲望のうずまく世界のなかで、アウトサイダーな人たちがそれでも生き生きと人生を生きていく物語でもある。
聖児:ブレヒトは、当時のドイツを支配していた資本主義社会を否定したかったんですよね。結果、彼の書くものは共産主義に近づいていき、そのせいでクルト・ヴァイルとは絶縁することになったわけですが……。資本主義社会の闇、みたいなところをしっかり描いているのも『三文オペラ』のおもしろさだと思います。
湯山:『三文オペラ』って世界恐慌のあとに改稿されてもいるのよ。銀行強盗をするするよりも銀行を設立するほうがずっとおトクだ、だから自分は強盗を辞めて銀行家になるんだって。国家というものが確固たる存在として君臨していた当時に、今私たちが直面しているグローバルな経済システムとその風潮を予見しているところがすごい。
聖児:ただ難しいのは、そのすごさを誰も表現しきれていない、ということなんですよね。本としておもしろいし、みんなやってみたいと思う。でも、ブレヒトの書こうとしていたもの、そのおもしろさに到達できていないんですよ。だからこそ100年以上、上演され続けているともいえるんだけど。
湯山:たいてい、カオスな群像劇にしてしまうんですよね。いろんな立場の人たちが、わちゃわちゃと騒動を起こす勢いで押し切っていく。今度の三浦基演出はそうではなく、画期的なコンセプトを打ち出してくると思います。
聖児:今に通じるテーマをどうすれば表現できるのかというのが、今回、僕たちの課題でもありますね。歌舞伎町で上演できるということに、けっこう勝機はあるんじゃないかという気はしているんだけれど。オペラが流行していた当時にこの『三文オペラ』を劇場で上演するというのは、かなりアングラでアバンギャルドなことだったと思うんですよ。だからといって今、東京芸術劇場や新国立劇場で上演すると、彼らのやろうとしていたことに倣うことになるのか?というとそうではないような気がする。東横キッズを排除しようとして、なぜか青いバリケードをはっている、歌舞伎町の広場でやるほうが姿勢としては正しいのではないかと。

湯山:12月の歌舞伎町行きたくないって人がけっこう多いんですよね。でも、食わず嫌いはやめて、再度若い人たちやインバウンドを集める街の熱量こそを体感してほしいよね。
聖児:僕は20歳のときからゴールデン街で働いていて、歌舞伎町は朝ごはんを食べにいく町だったんですよ。だから決して、歌舞伎町を「悪いところ」だと思ってはいない。『三文オペラ』にそぐう町だと思う理由はただ、資本主義が加速する現代において向き合うべき問題を、そこに生きている人たちが楽しく暮らすのと同時にあたりまえのように孕んでいるから、なんですよね。
湯山:劇場文化というのは、鑑賞のあとに語りあうところまでがセットなんですよ。『三文オペラ』をご覧いただいたあと、ぜひみなさんには歌舞伎町に散っていただき、街のエネルギーを体感してほしいなと思っていますね。現場の街っていうのは、力があるんですよ。今は魅力のあるコンテンツが多いネットの世界にみんなふけってしまうけど、リアルはやっぱり面白いんですよ。光もあれば陰もある、強烈な街の力をじかに浴びることによって、人は生きていけるのだと。同じように、マンガや小説を読むのともまた違う、ライブならではのエネルギーが演劇には莫大にあるのです。

聖児:今回の演者は、化け物級のエネルギーを持つ人たちが集まっていますしね(笑)。ものすごい悪役ですけど大丈夫ですか、って聞いたら「私は首の下まで芸能界の地獄に使ってきたからなんでも平気」っておっしゃった方もいました。かっこいいですよねえ。
湯山:聖児さんふくめ、みなさん、顔つきがいいんですよね。これまでどの『三文オペラ』を見ても私が納得できなかったのは、演者がみんな、ストリート感皆無の良識的な市民の顔をしているからなんですよ。秋吉久美子さんのすごみも、そう。今回のキャストはみなさん、アウトサイダーの香り漂う夜の顔をしていらっしゃいます。
聖児:ヒロインのももさんも、ばりばり大道芸をやっていらっしゃる方で。チャラン・ポ・ランタンというユニットでメジャーデビューし、今や超有名になっていますけど、もともとはゴールデン街で僕と同じ店で働きながら歌を歌っていたんですよ。新宿で生きてきた人なんですよね。
湯山:そうなんですね。今回、手塚マキさんにご協力いただいて、劇中の結婚式シーンにホストの皆さんが客席のみなさまにサーブしてくださるという演出があるんですよ。
聖児:結婚式に本当に参加している気分を味わっていただく、ということですね。だから上演を観たあとは、湯山さんのおっしゃるとおり町に散っていただき、Smappa!系列のホストクラブでああだこうだと感想を語っていただくのがセットかなと思います。
■参考リンク
湯山玲子のカルチャークラブ
「ワルい子のためのブッククラブ」
https://yuyamareikocultureclub.com/about
猫町倶楽部
https://nekomachi-club.com/about
■関連情報
音楽劇『三文オペラ 歌舞伎町の絞首台』公演概要
公演日程(全6公演):
2025年12月17日(水)、18日(木)、19日(金) 18:30開演
12月20日(土) 14:00開演/18:30開演
12月21日(日) 14:00開演
※各公演の開場は開演の30分前会場:
場所:東京・新宿歌舞伎町SHINJUKU FACE
原作:ベルトルト・ブレヒト『三文オペラ』
翻案:聖児セミョーノフ
演出:三浦基
プロデューサー・音楽監督:湯山玲子
チケット料金(税込/全席指定):
SS席(紳士と淑女の貴賓席) 18,000円(パンフレット/ドリンクサービス付き)
S席 11,000円 /A席 7,800円 /立ち見 4,000円
※別途ドリンク代600円(SS席を除く)
キャストは公演特設サイト参照
<音楽劇『三文オペラ 歌舞伎町の絞首台』特設サイト>
https://sanmon-opera.com























