伊坂幸太郎デビュー25周年書き下ろし『さよならジャバウォック』がトップに 10月に入ってもミステリ作品の勢いとまらず

以前、櫻田智也『失われた貌』(新潮社)についての紹介記事(櫻田智也『失われた貌』なぜ注目されている? 仮説と検証を地道に重ねていく“捜査小説”としての幹の太さ)を書いた時にも触れたことだが、ミステリ小説の勝負作は8月もしくは9月に刊行が集中する傾向にある。これは年末ブックランキングの定番である宝島社の『このミステリーがすごい!』が「前年10月~9月刊行の奥付のもの」を対象としていることが大きいだろう。だが今年は『このミス』対象期間が過ぎた10月・11月にミステリ小説の目玉作品が揃っている。東京創元社からは10月31日奥付で梓崎優の『狼少年ABC』(ミステリ・フロンティア)が刊行。本屋大賞にもノミネートされたデビュー作『叫びと祈り』(創元推理文庫)で注目を集めた著者の、約12年ぶりとなる新作である。また、11月下旬には湊かなえが双葉社より『暁星』を刊行予定だ。
このような中、2025年10月第3週のオリコン文芸書ランキング第1位にランクインしたのは伊坂幸太郎の『さよならジャバウォック』(双葉社)である。もはや現代日本ミステリを代表する作家というべき伊坂が新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した『オーデュボンの祈り』(新潮文庫)でデビューしたのが2000年のこと。つまり伊坂は今年でデビュー25周年を迎えることになる。四半世紀の歳月において伊坂は現代日本ミステリを牽引する存在であり続けたのだ。デビュー25周年を祝うものとしては2025年5月に『パズルと天気』(PHP研究所)というノンシリーズ短編集が刊行されているが、『さよならジャバウォック』は書き下ろし長編作品である。まさにデビュー25周年を言祝ぐに相応しい、ミステリとして渾身の仕掛けが込められた小説になっているのだが、具体的な粗筋に踏み込むとネタばらしになりかねないという書評家泣かせの本でもある。「なぜかしら、頭がいろいろな気持ちでいっぱい。何が何だかはっきり分からない。」という『鏡の国のアリス』に登場するアリスの言葉が小説冒頭に書かれているが、読んでいる最中は本当に「何が何だかはっきり分からない」心境で夢中になって頁を捲り続けるだろう。
ちなみに『さよならジャバウォック』の刊行元である双葉社は、知念実希人の『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』と『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』、雨穴の『変な地図』、そして先ほど触れた湊かなえ『暁星』と、文芸書の注目作品が一挙に集中している。今後の動向も要チェックだ。






















