「LINEマンガ」全アプリ収益ランキング1位に 高橋将峰社長に訊く、「ゲーム超え」できた理由と今後の展望

LINE Digital Frontierの代表取締役社長CEO高橋将峰氏。インタビューは新オフィスで行った。LINEマンガと同グループとなるebookjapanの今後の展開も気になるところだ

 「LINEマンガ」が2025年上半期の全ジャンルのアプリの中で収益ランキング第1位に輝いた。「ポケポケ」や「モンスターストライク」といった人気ゲームアプリを抑えてのナンバー1であること。「LINEマンガ」が半年間でゲームアプリを含む全ジャンル中のトップに輝いたのは、初めてだという。「LINEマンガ」が躍進した理由は何か? あらためて浮き彫りになった競合のマンガアプリとの違いとは? 「LINEマンガ」を運営するLINE Digital Frontierの代表取締役社長CEO高橋将峰氏に聞いた。

「LINEマンガ」2025年第2四半期でも日本国内のアプリ収益1位を堅持 強さの秘密はオリジナル作品のラインナップと独自の広告戦略

LINEマンガはこの度発表された日本国内のアプリ収益ランキング(Sensor Tower 2025年7月24日付)で、第2四半期…

「LINEマンガ」好調の要因

――日本国内のアプリ収益ランキングで「LINEマンガ」が2025年上半期を通して第1位になりました。率直に感想からうかがえますか?

髙橋:「本当にうれしい」のひとことです。「ゲームを抜いた順位でしょ?」と思われるのですが、大ヒット中のアプリゲームなども含んだ全ジャンルを通しての1位ですから、大変に誇りを感じています。また「LINEマンガ」単体というより、マンガアプリや縦読みマンガのwebtoonが、コンテンツとして浸透したことのひとつの表れとも捉えています。その一歩を踏み出せたことこそが、最も大きなよろこびですね。

アプリ収益ランキングで1位になった理由は、主に3つの要因があるという

――とはいえ、多数のマンガアプリがある中で1位に輝くのはやはり独自の強みがあるのではないでしょうか。「LINEマンガ」が収益NO.1に輝いた理由を、どのように分析されていますか?

髙橋:いくつかあるのですが、大きく3つに絞れると思っています。具体的には「出版社と連携したキャンペーン」「バラエティに富んだオリジナル作品」、そして「SNSなどを通した効果的な広告プロモーション」です。

――1つ目の「出版社と連携したキャンペーン」というのは?

髙橋:「全話無料」や「○話無料」といったキャンペーン施策はもともと新規ユーザーの獲得に効果的なのですが、この種類やコンテンツが昨今膨大に増えました。背景にあるのは、マンガを扱う出版社の方々が、マンガアプリの価値を認めてくださったことです。「無料キャンペーンをすると、より多くのユーザーの方々に作品を届けられる」「キャンペーン終了後も、課金して読んでくださるユーザーが得られる機会につながる」と過去の実績、数字から、新作・旧作を問わず多くの作品を連携キャンペーンとして協力してくださるようになったのは大きいと思います。

――マンガ出版社が、「LINEマンガ」のような外部のプラットフォームの価値を強く認識するきっかけは何だったのでしょう?

髙橋:突然潮目が変わったのではなく、少しずつ認めてくださったのだと思います。出版社からすれば大切な作家さんたちの作品を「無料で読ませる」のは抵抗があったのは間違いありません。少しずつお試しいただいて、最終的に購入まで結びつくことを実感くださっています。マンガの作品数は増えていく一方ですが、リアル書店は減っています。それは書棚に単行本として置かれ、読者の方々の目に触れる機会も減っているということ。そのなかでマンガアプリが新たな読者を獲得する機会となるのは間違いありません。

 また当社はレコメンドエンジンの精度が高いため、新規読者を獲得する可能性が高い。ユーザーの方々にとっても魅力的で自分好みの作品に出会えるチャンスが多い。このマッチングの精度が日々高まっていることも、結果として収益につながったのではないかと考えています。そのうえで、次の「豊富でバラエティに富んだオリジナル作品群が揃ってきたこと」が効いてくるのです。

――2つめの理由ですね。確かに以前から「LINEマンガ」はバラエティに富んだ作品がある印象です。マンガアプリのオリジナル作品となると「異世界転生モノ」や「悪役令嬢モノ」が多い印象がありますが、やや毛色が違うというか……。

髙橋:もちろん異世界ファンタジーやバトルマンガは人気コンテンツなので多く取り揃えています。ただ、それらに加えて、Netflixで人気となったドラマ「トラウマコード」の原作である『重症外傷センター:ゴールデンアワー』といった医療系マンガ、あるいはタイムリープに復讐やラブストーリーの要素もある『私の夫と結婚して』など、全く違うジャンルの違うヒット作を揃えています。

 多彩なマッチングを担保する受け皿としてのすぐれたオリジナル作品群が揃っていることは、MAU(Monthly Active Usersの略。特定の1か月間にサービスを1回以上利用したユニークユーザー数をサービス登録者数や総ダウンロード数で割ったもの)をあげることに寄与していると感じています。

――LINEマンガのwebtoon作品が多彩な理由は、そうした狙いもあったわけですね。

髙橋:いえ、もともと韓国で制作されたwebtoon作品が多種多様でしたし、別の理由からそうなっていたんです。日本でマンガのIPは、アニメという大きなアウトプット先が伝統的にあります。なので、マンガもアニメにフィットしやすいファンタジーやバトルものが多い傾向があると思うのです。しかし、韓国では「アニメは子どもが観るもの」というイメージが根強かった。一方で、非常にドラマ制作は盛んなので、IPの出口として「実写ドラマの原作にフィットしそうなマンガ作品」がつくられやすかった、という背景があります。

ドラマ『私の夫と結婚して』人気で売上が12倍に

オリジナル作品の映像化によって、原作が読まれるという好循環になっていることも売上増の要因と話す

――なるほど。『私の夫と結婚して』などは韓国でドラマ化され大ヒットしただけではなく、今年6月には小芝風花さんと佐藤健さん主演でAmazon Originalドラマで日本版が制作され、日本国内視聴者数第1位にもなりました。

髙橋:そうですね。日本人キャストと韓国のドラマスタッフがタッグを組んでいるため、エネルギッシュでユニークな作品になっていましたね。これを機に多くの視聴者の方が「元々はウェブ小説で、webtoon版があるのか!」と「LINEマンガ」を訪れるユーザーの方が急増しました。Prime Videoでの配信の前とあとの月でwebtoon版『私の夫と結婚して』の作品MAUは8.6倍、売上は12倍に伸びました。

――売上12倍はすごい数宇ですね。オリジナル作品の映像化で、また「LINEマンガ」への流入が増える。いい循環ができあがっているのは大きいですね。

髙橋:その意味では、いまテレビアニメが放映中の『クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者-』や、去年テレビドラマ化して、この7月に映画化までされた『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』といった国産のオリジナル作品が映像化され、原作も売れるという循環が生まれつつあるのもうれしいところです。日本の作家さんの発掘はやはり大きな使命だと思っていますから。

――最後の3つめは「SNSなどを通した効果的な広告プロモーション」です。どんな施策を実施されたのでしょう?

髙橋:マンガ作品のコマやセリフにBGMをあわせてSNSでの動画広告が成果を出しています。とくにwebtoonはTikTokとは相性がいいんですね。ストーリーがスピーディーで、1~2コマで惹きつける展開がある。TikTokのようにショート動画でさくさくと視聴したい方々は、ごく自然にLINEマンガに流入いただくケースが多く、新しい読者層の掘り起こしにもつながっています。こうしたプロモーションや広告戦略は、社内に優れた人材が揃っていることも成果につながった大きな要因ですね。

話題性ある他業種とのコラボ

――声優学校とのコラボによるプロモーション施策も話題になっていました。

髙橋:そうですね。アミューズメントメディア総合学院の声優学科の在校生にひろくオーディション形式で参加者を募集。広告動画に声優として参加していただく取り組みを実施しました。話題づくりもありますが、マンガやそこから派生するアニメ文化全体を盛り上げていきたい。若い才能を発掘していきたいという思いから実施しました。

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――打つ手がすべてうまくいっているようですが、あえてうかがいます。さらに「LINEマンガ」の「課題」があるとしたら、どこにあると感じていますか?

髙橋:いえいえ、課題ばかりです。今回は収益ナンバー1ということでとりあげいただいていますが、やっとマーケットが大きくなりwebtoonが浸透してきているものの、市場も、我々のビジネスモデルとしても成長の余地がまだまだあります。また、映像化作品は増えていますが、キャラクターグッズなどが大ヒットするIPはこれからです。

マンガの未来を創る

世界で活躍するマンガのクリエイターをこれからも輩出するために、LINEマンガがハブとなるさまざまな施策を推し進めていく

――確かに、webtoonの人気は高まっていますが、人気キャラクターが生まれているかというと、まだ少し見えづらいですね。

髙橋:「マンガの未来を創る」ことが、弊社のミッションです。日本からwebtoonでも横読みマンガでも、新しい才能がどんどん出てくるような役割を私たちがもっと担っていかなければ、という責任を感じています。とくにwebtoonはグローバルに読まれるチャンスが開かれている。もっと世界のハブになるような役割を担う必要があると考えています。

――国産webtoonが世界のユーザーに指示される。その片鱗は見えつつもあるのでしょうか?

髙橋:出てきてはいますね。『片田舎のおっさん、剣聖になる~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~』(スクウェア・エニックス)という作品は日本生まれのライトノベルで、後に秋田書店でコミカライズされ、さらに今年はアニメ化されています。アニメ化のタイミングでwebtoon化されたものを弊社グループのアメリカのプラットフォームで配信しました。するとやはり多くの方に読まれて、ランキングが上昇したんですね。横読みマンガになれていない海外の方には、やはりwebtoonが馴染みやすいのだなとあらためて実感しました。いずれにしても、日本から世界への道はまだまだこれからですね。

ディズニー、マーベル、スター・ウォーズとの共創

――グローバルという意味では、親会社であるWEBTOON Entertainmentが、8月に米ウォルト・ディズニー社との提携が発表されました。

髙橋:マーベルなどを有す同社の作品がwebtoonとして読まれていけば、さらに裾野はひろがると思います。それこそIPに関して。愛されるキャラクターづくりやグッズづくりに至るまで、トップランナーである同社から学べるものは多くあると感じています。僕自身も楽しみですね。

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