『鬼滅の刃』無限城編――胡蝶しのぶの宿敵・童磨に見る「自覚のない悪」の恐ろしさ

ちなみに、鬼になって以降の童磨の「善」とは、「愚かな人間たちを苦しみから解放するために喰い、永遠の命を持つ自らの肉体の一部にすることで救済する」というものなのだが、この考えに賛同できる者はまずいないだろう(彼の信者でさえも、喰われる際には拒絶している)。だから、無限城での戦いにおいても、童磨は、自分に立ち向かってくる蟲柱・胡蝶しのぶ(注・しのぶにとって童磨は、かつて姉・カナエを殺した憎い仇である)に対して、終始語り続けるのだが、価値観の違う2人の会話は、最初から最後まで平行線をたどるしかないのだ。
自覚のない「悪」と戦うために
原作を既読の方はご存じだと思うが、この童磨を討つために、胡蝶しのぶは、驚くべき奇策を用意してある。まだ映画版では描かれていないエピソードなので、詳細は省くが、それは、文字通り体を張った命懸けの奇策である。
しかし、薬学(毒学)に通じ、鬼を「力」ではなく「技」で倒すしのぶは、あくまでも「理論の人」である。たぶん、それ(だけ)では、童磨のような常識が通じない破格の「悪」を倒すことはできないだろう(しのぶ自身、そのことに気づいてもいる)。
そこで、あるトリックスターの登場――というか、乱入である。戦いの中で、そのキャラクターにも実は童磨との因縁があったということがわかるのだが、重要なのはそのくだりではない。神出鬼没なトリックスターは、すべての常識を覆す。理解不能な「悪」には、予測不能なトリックスターを、というわけだ。
結果、その乱入者の参戦により、戦いの現場は混乱。胡蝶しのぶの想いを受け継いだ栗花落カナヲも、童磨相手に「花の呼吸」の奥義を発動することになるのだが、その壮絶なバトルは、おそらく次の映画(第二章)で描かれることになるだろう。
童磨のような「ドス黒い『悪』」が、作劇上、必要なワケ
いずれにせよ、この童磨戦は、最初から最後までグロテスクな描写が続き、読んでいて(観ていて)あまり気持ちのいいものではないかもしれない。また、激闘の末、カナヲたちはなんとか童磨を討つのだが、そこに至るまでの大きな犠牲を思えば、読み手にとってのカタルシスも少ないだろう。
しかし、無限城における戦いの全てが、(たとえば猗窩座戦のような)“実は鬼の側にも、それなりに悲しい過去や言い分がありました”というものでは、物語のクライマックスを飾るバトルシーンの読後感がどれもこれも似たようなものになってしまう恐れがある。そういう意味では、やはり童磨は、最初から最後まで読者にとって、“不快な存在”でよかったのだと私は思う。
そう、ヒーロー物――とりわけ集団バトル物の作劇上、彼のような「ドス黒い『悪』」は、「正義」の側の光をより輝かせるためにも、絶対に必要な存在なのである。
■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
全国公開中
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)、上田麗奈(栗花落カナヲ役)、岡本信彦(不死川玄弥役)、櫻井孝宏(冨岡義勇役)、小西克幸(宇髄天元役)、河西健吾(時透無一郎役)、早見沙織(胡蝶しのぶ役)、花澤香菜(甘露寺蜜璃役)、鈴村健一(伊黒小芭内役)、関智一(不死川実弥役)、杉田智和(悲鳴嶼行冥役)、石田彰(猗窩座役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:矢中勝、樺澤侑里
美術監修:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:Aimer「太陽が昇らない世界」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)・LiSA「残酷な夜に輝け」 (SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
総監督:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
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