『鬼滅の刃』無限城編――我妻善逸の宿敵・獪岳はなぜ鬼に堕ちたのか?

『鬼滅の刃』獪岳はなぜ鬼に堕ちたのか?

 数々の歴史的な記録を打ち立て、公開初日からおよそ1月(ひとつき)経ったいまなお、その勢いの衰える様子がまったくない『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。

 今回の「第一章」では、上弦の肆(し)・鳴女が操る異空間「無限城」を舞台に、3つの戦い(具体的にいえば、胡蝶しのぶ対童磨戦、我妻善逸対獪岳戦、竈門炭治郎・冨岡義勇対猗窩座戦)が描かれるのだが、本稿では、物語の中盤の山場ともいうべき、我妻善逸対獪岳戦について考えてみたいと思う。

※以下、原作および映画の『鬼滅の刃』のネタバレを含みます。両作を未読・未見の方はご注意ください。(筆者)

善逸にとって、負けられない戦い

 我妻善逸は、主人公・竈門炭治郎と同期の鬼殺隊隊士である(階級は、「無限城編」の時点で「丙(ひのえ)」)。「雷の呼吸」の使い手だが、実は、6つある型のうち、「壱ノ型」しか使えない。

 一方の獪岳もまた、もともとは「雷の呼吸」の使い手であり(彼の場合は、逆に「壱ノ型」だけが使えない)、善逸にとっては兄弟子でもあったが、ある時、上弦の壱・黒死牟の誘い(と恐怖)に負け、鬼になった……。

 そのことを知ったふたりの師・桑島慈悟郎は、責任をとって自害。身寄りのない自分を育ててくれた桑島に心から感謝していた善逸は、鬼殺隊入隊後、初めて、自らの手でけじめをつけなければいけない戦いに挑むことになるのだった。

©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 覚悟を決めた善逸はいう。「やるべきこと、やらなくちゃいけないことが、はっきりしただけだ。(中略)これは絶対に俺がやらなきゃ駄目なんだ」(原作・第136話より)

獪岳と岩柱・悲鳴嶼行冥の因縁とは

 ちなみに、話がやや混乱してくるかもしれないが、獪岳は、善逸だけでなく、岩柱・悲鳴嶼行冥とも浅からぬ因縁がある。

 というのも、かつて、悲鳴嶼は、身寄りのない子供たちを寺で育てていたのだが、その中に獪岳もいたのだ。しかし、ある時、獪岳は金を盗んだことがバレて、寺を追い出される(注・悲鳴嶼はそのことを知らない)。そして、夜道で鬼と遭遇し、自分が助かる代わりに、仲間たちを売ったのだ。

 寺では惨劇が起き、悲鳴嶼の人生も大きく変わることになるのだが、注目すべきは、なぜ、獪岳はその後、桑島のもとに入門しようと思ったのかだ。

 「生きていく」ことに異常な執着を見せる獪岳だが、それならば、わざわざ死と隣り合わせの鬼殺隊入隊を目指さなくてもいいのだ。だが、彼は、あえて鬼狩りの道を選んだ。そして、過酷な修業にも耐えようと思った。そこには、やはり、かつて(自分を追い出した者たちとはいえ)寺の子供たちを裏切ったことへの贖罪の気持ちと、彼なりの正義があったのだと私は思う。そう、この、善と悪の間で揺れ動く脆(もろ)さこそが、獪岳というキャラクターに深みを与えているといっていいだろう。

©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 『鬼滅の刃』では、猗窩座や堕姫・妓夫太郎のような、やむにやまれぬ理由で鬼になった者たちが描かれる一方で、童磨、魘夢、玉壺、半天狗など、救いようのない悪も描かれ、獪岳はどちらかといえば後者に属するタイプのヴィランだとは思うのだが、一点だけ違うところがあるとすれば、それは、彼が鬼になってもなお、正義の象徴である「剣」と「呼吸」を捨てなかった(捨てられなかった?)ことかもしれない(これは、獪岳を導いた黒死牟についてもいえることだが)。

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