OKAMOTO’Sオカモトショウ連載『月刊オカモトショウ』
オカモトショウがジョン・レノンを聞きながら読みたい漫画は? 『図書館の大魔術師』「BLUE GIANT」を語り尽くす

漫画で「すごい演奏」の表現を更新し続ける「BLUE GIANT」
——続いては「BLUE GIANT」シリーズ。仙台で暮らす高校生の宮本大がサックスとジャズに目覚めるところからはじまり、世界的なプレイヤーになるまでを描く音楽マンガです。

2023年に映画化されたので知ってる人も多いと思います。ただ「映画で描かれた“第1部”あたりまでしか読んでいない人もいるんじゃない?」と思って、改めて紹介したいなと。「BLUE GIANT」は“誰もが知るレジェンド・宮本大の人生を描く”という構成になっていて。つまり“大はどうやって伝説のジャズミュージシャンになったか?”を描いてるマンガなんですよ。
第1部は日本編。大がサックスをはじめて、バンドメンバーと出会って東京で活動するところまでが描かれているんですけど、第2部(『BLUE GIANT SUPREME』)ではヨーロッパに行くんです。それはもう完結していて、今はアメリカ編をやっているんですよ。ジャズはアメリカで生まれた音楽だし、やはり本場に行かないと……ということなんですけど、このアメリカ編がまためっちゃ面白くて。6月に最新刊(『BLUE GIANT MOMENTUM』第5集)が出たんですけど、読みながら涙をこらえるのに必死でした。
——どのあたりがグッとくるポイントなんですか?
当たり前ですけど、マンガなので音は聴こえないじゃないですか。そのなかで“すごい演奏が行われている”ということを描いてきたわけですけど、そのピークがどんどん上がってるんですよ。毎回違う角度からアプローチしているんだけど、いつも「これが『BLUE GIANT』の感動だ」というところに持っていかれるというか。
まず、アメリカでジャズをやるのは大変なんですよ。とにかくデカい国だし、移動するのもめちゃくちゃ大変で。ニューヨークに住もうとするんだけど、ホテル代や家賃も高いし、働きながら音楽をやろうとしても、いい仕事なんかあるわけない。そういう生活の大変さも描かれているんです。あと、ジャズにもいろいろ流行があって。マンガのなかではインテリっぽくて、アカデミズムの要素があるジャズが流行ってるんですけど、大のスタイルはもっとプリミティブで“心がそのまま音になる”というスタイルだから、なかなか評価されないこともあって。
——アジア人のサックス奏者が、なんのツテもないままアメリカでジャズをやること自体、相当ハードルが高いですよね。
そうなんですよね。ただ、「BLUE GIANT」のすごいところは、わかりやすい敵みたいな人がほとんど出てこないんです。マンガでも映画でもそうですけど、強い敵を設定して、“どうやって攻略するか?”“どう倒すか?”というところで物語のダイナミズムを作ることが多いじゃないですか。つまり善と悪を設定するのがセオリーなんですけど、「BLUE GIANT」はそうじゃなくて。たとえば大を困らせようとサキソフォンを壊しちゃう人が出てくるとか、そういう仕掛けがないんですよ。第1部でバンドメンバーのピアニストが大事なライブの前に骨折しますけど、そういうエピソードもどんどんなくなって。日本人のミュージシャンがアメリカに行ったら経験するであろうことをきっちり描くことで、グッとくるピークをとんどん上げているんですよね。
——ミュージシャンのショウさんが読んでも、リアリティがある?
めっちゃあります。マンガのなかで「なんてすごい演奏なんだ!」と言われても、そんなに都合よすぎるでしょと思われるかもしれないけど、そこに至るまでの過程だったり、大たちの努力をきちんと描くことで、演奏シーンの説得力につなげてるんだと思います。
あとね、いろんな寄り道をするんですよ。アメリカ編の最初の舞台はシアトルで、グランジ好きのおっちゃんと知り合って車の整備工場で働いたり。一見「ジャズやるためにはムダじゃない?」と思われそうなこともやってるんだけど、それも音楽の大事な部分だと思っていて。これを読んでる人もそうだと思いますけど、好きなミュージシャンを思い浮かべると、音楽そのものだけじゃなくて、その人が経験してきたことだったり、ダメなところも含めて惹かれてるはずなんですよ。特にジャズやブルースって、そういう背景なしには語れないところがあって。「BLUE GIANT」の作者はそのことをよくわかってるんだと思うし、だからこそ大たちの演奏がダイレクトに伝わってくるんだろうなと。効率がすべてではなくて、いろんな経験や寄り道のなかに本質があるというか。たぶん石塚さんご自身もそう思ってマンガを描いてる気がするし、本当にアートピース(アーティストが自身の哲学や感覚を表現するために制作する作品)みたいなマンガだと思います。
——ジャズの歴史や現在のモードも含めて、取材もしっかりやってるんでしょうね。
そうだと思いますよ。余談ですけど、自分の父親(サックス奏者のスコット・ハミルトン)の名前も出てくるんですよ。父親にも教えたんですけど、カタカナが読めないから分からなかったみたいです(笑)。
『図書館の大魔術師』「BLUE GIANT」を読みながら聴きたい曲
■『図書館の大魔術師』
John Lennon/Plastic Ono Band『ジョンの魂』
■「BLUE GIANT」
FLIP PHILLIPS/BUDDY RICH TRIO『FLIP PHILLIPS-BUDDY RICH TRIO』





















