日本コミック、米国の人気作は? 紀伊國屋書店ニューヨーク本店店長「恋愛の多様性を描いたコミックに支持」

日本コミック、米国の人気作は?

 世界中で人気となって久しい日本のコミック。そのジャンルや読者層はますます多様化する中、昨今は海外でどんな作品が特に人気があるのだろうか。米国の紀伊國屋書店NY本店の店長・永井泰伸氏に、コミックの売れ行きについて、現場で感じる傾向を話してもらった。

売れ行き増の鍵はアニメ化

 同店ではコロナ禍以降、コミックの売上が急増したという。コミック担当者は、人々が自宅待機を余儀なくされ生活様式が変化する中でアニメを視聴することも増え、原作のコミックを手に取る機会が増えたと分析する。TikTokのようなSNSのプラットフォームの登場によって、新作や話題作の情報が手に入りやすくなったことも一因だという。

 永井店長はその背景を解説する。

「コロナ禍の巣籠もり需要で、アニメ・コミックはさらに人気になりました。当時は特に『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』など、爆発的なヒット作の存在もありました。英語コミックの需要に供給が追いつかず、第1巻を日本語で買ってみる方や先の展開を知りたいと英語版がまだ出ていない巻を手に取る方も多くいらっしゃいました。現在は拡大した需要を受け、英語コミックの出版物がかなり充実してきました」

 コミックの人気は多様化している。同店のコミックの上位3作品は『気になってる人が男じゃなかった』、『呪術廻戦』、『ダンダダン』だという。永井店長は売れ筋の背景について、次のように考察する。

「アニメ化が知名度や人気が広がる契機になることが多いです。アニメのクオリティが漫画の売れ行きを左右するほどで、最近では『ダンダダン』がアニメをきっかけにファンを広げました。特に人気アニメの原作コミックは需要が高まっており、私たちもどんな作品がアニメ化されるかを日々チェックしています」

ニューヨーカーに人気のコミックとは

 そうした中、異例のヒットを記録しているのが『気になってる人が男じゃなかった』。アニメ化が決定しているとはいえ、まだ放送されていない今の時点で、すでに大変な売れ行きを見せているという。同作は、タイトルの通り、女子高生・あやがCDショップのミステリアスな「おにーさん」に惹かれるが、実はクラスメイトの目立たない女子・みつきだったというストーリーだ。

『気になってる人が男じゃなかった』英訳版

「この作品が売れている背景には、恋愛の多様性を描いたコミックに対する支持の高まりがあります。このジャンルはアニメ化していない作品も多いんですが、人気の作品が多くあるんです。特に『気になってる人が男じゃなかった』はアメリカでは表紙や内容の色彩デザインから『グリーン百合』と呼ばれていて、SNS発信が起点となって非常に注目されました」

 その他にはどんな作品があるのだろう。

「最近では『ラブ・バレット』という女性同士の恋愛を要素にしたコミックも人気作品です。死後キューピットとして生まれ変わった主人公たちが、弓矢ではなく銃を手に人々の恋を成就させるために奔走する物語。著者のinee / アイニー さんはアメリカに住んでいる方なんですが、SNSで一巻のプロモーションのため、しばらく本誌での連載をお休みしますという投稿をしました。すると、このまま連載が終わってしまうんじゃないかと海外のファンの間で話題になって、母国語でないにもかかわらず単行本を購入し、紀伊國屋を含むオンラインからの発注方法まで示したアンオフィシャルのサイトまでできました。草の根からの盛り上がりは他のジャンルよりも大きく、コミュニティとしての強さを感じました」

 こうした中、一方でアクション系の少年マンガも今や幅広い世代に読者が広がり、特に『呪術廻戦』、『ワンピース』など、多くのアクション系の作品が人気だ。

 日本のコミックは、アニメ化やSNSの影響によって作品が広まりやすくなった一方で、米国読者の自身のアイデンティティや価値観を理解するための存在にもなっている。さらに、依然として男性読者の支持の厚いアクションコミックは高い人気を誇っている。今後もその人気は多様化し、日本のコミックは新たな広がりを見せていきそうだ。

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