【漫画】ずたぼろ令嬢×大富豪の恋は実るのか? アニメ化で注目『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』

【漫画】ずたぼろ令嬢×大富豪の恋は実る?

 お姫様のような美しいドレスを着た姉が脚光を浴びる中、地味な服に身を包んだ妹は、庭園の隅で自分の誕生日を静かにやり過ごす――。

 なんとも切ない導入から始まる『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』は、日本最大級のWeb小説投稿サイト『小説家になろう』より2019年に誕生した長編小説。2021年にはコミカライズ化され、シリーズ累計発行部数は200万部を突破。2025年7月4日からはTVアニメの放送も決定するなど、今大きな注目を集めているラブストーリーだ。

『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』第1話を試し読み

 シャデラン男爵家の次女として生まれながらも両親から冷遇され、心身ともに“ずたぼろ”状態なマリー。そんな彼女が誕生日の夜に出会ったのは、国一番の大富豪の伯爵・キュロスだった。思いがけず二人は心を通わせ、キュロスはマリーの聡明さと美しさに強く惹かれるが、とある勘違いから姉のアナスタジアに求婚。しかし、アナスタジアは事故死してしまい、生活に困窮した両親は、「姉の代わりに」とマリーをキュロスへ差し出すのだった。

 1巻から怒涛の展開でストーリーが進んでいくが、一番の見どころでもあるマリーとキュロスの関係性の変化はじっくりと丁寧に描かれている。自己肯定感が地の底まで落ちているマリーは、誰かに大切に扱われることに戸惑い、最初はキュロスの愛をなかなか信じられない。キュロスはそんな彼女の繊細な部分も全て受け止め、不器用ながらに愛情を注ぎ続けていく。そしてマリーは少しずつ心を開いていき……。時折すれ違いながらも、少しずつ距離が縮まっていく二人の関係性は、もどかしくも愛おしく、胸がキュンとするようなトキメキを味わわせてくれる。

  “令嬢”や“溺愛”といった人気ジャンルを取り入れた王道のシンデレラストーリーでありながら、キュロスがこの国ではマイノリティなルーツを持つ人物として描かれている点は、本作の大きなポイントだ。彼は伯爵という地位を築いているものの、実は異国の地・イプサンドロス共和国からの移民であり、貴族社会に根強く残る差別や偏見に対して怒りを抱く場面も描かれている。中でも、1巻後半で明かされる彼の過去は壮絶なものだった。だからこそ、マリーという運命の相手に出会い、彼女をとことん甘やかそうとするキュロスの人間らしさは、なんとも愛おしい。「この二人には絶対に幸せになってほしい!」と強く願わずにはいられないほどに。

 マリーもまた、ただ“身なりを整えれば実は美人だった”というだけのヒロインではない。両親に家事や仕事を押し付けられる日々の中でも、彼女は学ぶことを諦めなかった。そして身につけた教養は、イプサンドロスの文化についてキュロスと対等に語り合えるほどのものとなる。異国の文化を自然に受け入れて愛せる、しなやかな感性。そして、自分の物差しをしっかり持った芯の強さ。そんなマリーの内面こそが、キュロスの心を強く惹きつけたのだ。

 このように、主要キャラクターの二人が単なるテンプレートではなく、オリジナリティと深みのある人物として描かれていることが本作の読み応えに繋がっている。そして読者は、「キュロスにはマリーしかいない」と心から納得させられることだろう。

 二人を取り巻く人物もまた、魅力的なキャラクターで溢れている。飄々とした雰囲気でさりげなく二人の間を取り持ってくれる侍女頭のミオ。キュロスの母親であり、歯に衣着せぬ物言いだがマリーとキュロスの心強い味方であるリュー・リュー。これ以上のネタバレは控えるが、以降も老若男女さまざまなキャラクターが登場し、ストーリーを盛り上げていく。マリーがそれぞれの人物とどう向き合い、どう接していくのか。その姿を通して、彼女の人間的な魅力が深まっていくので、その点にもぜひ注目してほしい。

 アニメ化という点で個人的に期待しているのは、キュロスの館でマリーが少しずつ癒されていく日常描写だ。たとえば、館にやってきたばかりのマリーを、焼きたてのクッキーとジンジャーシナモンティーでおもてなしして緊張を解きほぐすシーン。ずたぼろな見た目のマリーを果実酒入りの美肌湯で磨き上げ、ドレスとメイクで美しく変身させるシーン。ボロのベッドでしか寝たことがないマリーが、広い部屋とふかふかのベッドに目を輝かせるシーン。文字にするだけでも心が躍るシンデレラストーリーならではの変身の瞬間が、映像と音でどう表現されるのか、今から楽しみでならない。

 そして、マリーやキュロスの繊細な感情の揺れがどう演じられるのかにも注目したい。自分には価値がないと思い込んでいたマリーが、愛されることの喜びを少しずつ知っていく様子や、優しい言葉に戸惑いながらも、頑なだった心を少しずつほどいていく姿。恋愛のときめきだけでなく、人としての尊厳を取り戻していくマリーの姿は、きっと多くの読者や視聴者の記憶に深く刻み込まれるだろう。

 アニメで初めて本作に触れる人はもちろん、原作ファンも改めて、彼らの愛と成長の旅路に心を重ねてみてほしい。 

■書誌情報
『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』
著者:仲倉 千景、とびらの
価格:693円
発売日:2021年1月15日
出版社:双葉社

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