手塚治虫「リボンの騎士」幻のバージョンとは? マニア垂涎の単行本『ミッシング・ピーシズ』の真価

■少女漫画の原点にして代表作
手塚治虫の代表作であり、日本の少女漫画の原点と評される『リボンの騎士』。性別が女性でありながら男性として育てられた“男装の麗人”サファイアが活躍する漫画だが、その幻のバージョンが収録された単行本『リボンの騎士 ミッシング・ピーシズ』(手塚治虫/著、立東舎/刊)が6月17日に発売される。税込6050円。
近年、立東舎が立て続けに刊行している、手塚治虫の熱烈なマニア向け書籍の最新刊。これまでも『ブラック・ジャック』『三つ目がとおる』『火の鳥』などが刊行され、従来の単行本には未収録だった貴重な資料のほか、単行本で描きかえられてしまっている原稿やセリフを雑誌掲載時のまま収録している。こうしたファン垂涎の内容で高く評価されてきた。
こうした書籍が成立するのは、手塚特有の漫画制作のこだわりにある。雑誌に漫画を発表したのち、単行本にする際に大幅に内容を描きかえることが多かったためだ。例えば、『火の鳥』などは単行本の発売時期によってセリフが変更されていたり、物語のオチが雑誌と単行本ではまったく違うものになっているケースも存在するのである。
■何度も連載された『リボンの騎士』
さて、『リボンの騎士』が初めて連載されたのは、講談社の少女向け雑誌「少女クラブ」1953年1月号~1956年1月号だった。その後、「なかよし」に発表の場を移して、続編『双子の騎士』(当初のタイトルは『リボンの騎士』)を1958年1月号~1959年6月号まで連載している。
そして「少女クラブ」版をリメイクする形で、「なかよし」1963年1月号~1966年10月号で再度、『リボンの騎士』が連載。同じ内容を繰り返しているわけだが、当時の少女漫画雑誌は読者が数年で入れ替わっていたため、新しい読者は違和感なく読むことができたといわれている。
このたび刊行される『リボンの騎士 ミッシング・ピーシズ』には、古書価格の高騰で入手が非常に難しい、鈴木出版の「手塚治虫漫画選集」に収録された『双子の騎士(原題・リボンの騎士)』のほか、これまで一度も単行本化されたことがない北野英明の作画による「少女フレンド」版『リボンの騎士』が収録されている点に注目したい。
特に、北野は手塚のアシスタントを務めた後、虫プロダクションでアニメーターとしても活躍した人物である。虫プロが製作したアニメ『ジャングル大帝』『あしたのジョー』などに関わり、日本のアニメの黎明期を支えた。その後は独立し、麻雀漫画家として活躍するという異色の経歴の持ち主である。
そのほか、初公開となる『リボンの騎士』関連資料として、シノプシス、ラフスケッチ、アニメの絵コンテやカットなどを豊富に収録している。『リボンの騎士』は手塚が幼いころから親しんだ宝塚歌劇団の影響を濃厚に受けており、華やかな画面構成やカラー原稿は見ごたえがある。ぜひ、貴重な歴史資料ともいえる一冊を手元に置いてほしい。
【書籍データ】
書名:リボンの騎士 ミッシング・ピーシズ
著者:手塚 治虫
定価:6,050円(本体5,500円+税10%)
仕様:B5判/412ページ
発売日:2025年6月17日
発行:立東舎/発売:リットーミュージック