『アオアシ』いよいよ最終回へ! サッカー漫画の「新たな金字塔」と評された理由とは?

サッカー漫画『アオアシ』は何が凄い?

 「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載中の人気サッカー漫画『アオアシ』(小林有吾/小学館)が、いよいよ最終回を目前に控えている。

 2015年の連載開始以来、単行本の累計発行部数は2300万部(2025年6月現在)を突破。2020年に発表の第65回小学館漫画賞一般部門を受賞、2022年にはNHKでアニメ化(2026年には第2期が放送予定)もされるなど、サッカー漫画の「新たな金字塔」としてその地位を築き上げてきた。

 『アオアシ』が異彩を放った最大の理由は、物語の舞台を「高校の部活」ではなく「Jユース(プロクラブの下部組織)」に置き、いわゆる“育成”を真正面から描いた点にある。この物語で読者が体験するのは、インターハイや高校選手権で日本一を目指す「青春」ではなく、「プロを目指して毎日厳しい環境で鍛えられているユース世代」の日常だ。サッカーを本気でやってきた人なら、ユースと部活の“本気度”の違いは身にしみてわかるはず。そこまでサッカーに詳しくない人でも、作品の中で丁寧に描かれる仕組みや育成の考え方を通して、自然と競技の奥深さに引き込まれていく。

 その“リアルさ”は、主人公の設定にも象徴されている。主人公・青井葦人(あおい・あしと)は、愛媛の中学サッカーで無双していたワンマンストライカーだった。セレクションを経て、東京シティ・エスペリオンFCユースに入団するが、驚くべき展開が待っていた。葦人は「お前はフォワードに向いていない」と言い渡され、急遽、サイドバックへの転向を命じられるのだ。

 これは漫画史的に見ても極めて異例である。従来のサッカー漫画において、主人公はフォワードや攻撃的ミッドフィルダーといった花形ポジションであることが定番だった。『キャプテン翼』の大空翼しかり、『シュート!』の田仲俊彦しかり。『アオアシ』の3年後に連載が始まった『ブルーロック』に至っては登場キャラがほぼ全員フォワードだ。

 だが、『アオアシ』はそれを真っ向から覆し、「サイドバック」を主役に据えた。これは、漫画として描くには“地味”で“難解”なポジションにあえて光を当てた英断である。しかも主人公の葦人はフィジカルにも恵まれず、俊足でもなく、テクニックやスタミナは並み、ド派手な必殺シュートも持っていない。では、何が彼の武器なのかといえば、それは「視野の広さ」である。ピッチ全体を俯瞰するように見渡し、仲間や敵の配置を頭に入れ、最適なポジショニングを取る。まるで鷹のように全体を見通し、数秒後の展開を予見する。これは一朝一夕で身につく能力ではない。だが、この“視野”という一見地味なスキルこそ、現代サッカーにおける最重要能力の一つであることを、『アオアシ』は物語の核として提示している。

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