『アオアシ』いよいよ最終回へ! サッカー漫画の「新たな金字塔」と評された理由とは?

サッカー漫画『アオアシ』は何が凄い?

 特筆すべきは、その能力に主人公自身が最初は気づいていないという点だ。多くのスポーツ漫画では、主人公の才能は周囲を圧倒し、最初から光り輝いている。しかし、葦人の場合は違う。彼の才能を最初に見抜いたのはエスペリオンユースの福田監督であり、セレクションに合格してからも、その視野を活かしたプレーの価値は周囲の指導や仲間との連携の中で少しずつ磨かれていく。本人は何度も壁にぶつかり、涙し、迷いながら前に進む。この地に足のついた描写が、多くの読者の心を掴んだ所以である。

 また、作品内で描かれる戦術や個人技術の説明がとにかく丁寧である点も見逃せない。「攻撃時は三角形を作る」「ボールを持っていないときに首を振る」「サイドバックが“絞る”ことでバランスを保つ」など、サッカー経験者でなければ理解しづらいプレーの意図や動作を、極めて分かりやすく可視化している。

 例えば、2022年のカタールW杯では、テレビ解説を元日本代表で守備的ポジションだった井原正巳と福西崇史の2人が務めた。その際、「絞る」という用語が連呼され、多くの視聴者は意味がわからず困惑したが、『アオアシ』の読者はその意図と重要性を理解し、この解説を自然と受け入れることができた。これは本作が“教科書”として機能していたことの証左であろう。サッカーを知らない読者にも、サッカーをより深く知ってほしいという作者・小林有吾の強い思いが、作品全体に通底している。サイドバックという地味な役割を主役に据えた構成には、サッカーという競技そのものに対する愛と敬意が込められているように思える。

 いよいよ最終盤を迎える本作だが、葦人の成長物語は“育成”というテーマを最後まで貫いてきた。彼はプロサッカー選手になるのか。その結末を見届けたい読者は多いだろう。

 『アオアシ』がもたらした最大の功績は、サッカーの深層を可視化し、一般人の鑑賞レベルを引き上げたことに尽きる。まさに「名作」であった。

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