『名探偵コナン』に始まりエラリー・クイーンへ 『無気力探偵』でデビューから10年、楠谷佑が自身のミステリ原体験を語る

作家・楠谷佑が自身のミステリ原体験を語る

『無気力探偵』の柚季モデルはエラリー・クイーン作品に出てくるジュナ?

——『無気力探偵』には柚季という印象的なキャラクターが出てきますね。男の子ですけど可愛いのでよく女性に間違われるという。

楠谷:柚季くんは当時僕自身が気に入っていて、「ちょっと出しすぎたかな」というくらい活躍させていました(笑)。彼の元になっているのはエラリー・クイーンの初期作品に出てくるジュナかもしれませんね。

——クイーン父子と同居している少年ですよね。ジュナですか。面白い。

楠谷:四章の脱出ゲームに出てくる舞台の名前が「暗黒屋敷」なのですが、あれは『エラリー・クイーンの新冒険』に入っていた「暗黒の家の冒険」が元になっていて、クイーンとジュナくんが一緒にアトラクションやる場面が楽しい話だったんですよね。あれもワンポイントのトリックから犯人がわかるフーダニットで、容疑者の属性がけっこうばらけている中での犯人探しがけっこう楽しかった記憶があります。四章はその辺をけっこう意識してましたね。

——文庫版に入っていた全五章に、今回の単行本化おまけとして番外編「答えのない日常の謎」がつきました。これ、なんで日常の謎ものなのでしょうか。

楠谷:同じことばかり申しあげちゃってるかもしれないのですが(笑)、やはり思いついたから、ということが大きいです。書いたのが去年の5月頃で腰を据えてフーダニットのロジックを出すのが苦しかった時期だったもので、登場人物の雑談を聞いてもらうような軽くて楽しい話っていうのを置こうかなと。それで日常の謎のアイデアを思いつきました。

——ボーナストラックなわけだから、そこで重量級のものではなくてもいいですよね。連作はもう1巻分あるんですよね。6月刊行がもう決まっていて。その2巻で打ち止めですか。続ければ続けられる物語のようにも思いますが。

楠谷:今回番外編をやってみたら、非常に書きやすくて驚いたんです。だから書こうと思えばもう少し書けるかな、という感覚はありますね。智鶴たちの物語をもっと読みたいと、皆様が思っていただけるのなら続刊も出していきたいです。

書き下ろした短編含め、刊行した完全版に手応えを感じているようだった。

「重厚なロジックのある、完成度の高いミステリを書きたい」

——読者の要望次第、ということですね。本作でデビューされてから約10年、さまざまな作品に取り組んでこられました。ご自身の目指すミステリ作家像ということでいえば、今はここを頑張りたい、というような目標はおありでしょうか。

楠谷:そうですね。まだ長篇の作品数が少ないので、オーソドックスで面白いミステリを長編でまず書けるようになりたいと思っています。現在は特殊設定ものに代表されるような、独自色の強い作品にみなさん挑戦しておられます。僕はその中で、普通のミステリというか、オーソドックスな根っこの部分に惹かれるので、キャラクターの魅力はこれからも追求していかなければなりませんが、重厚なロジックのある、完成度の高いミステリを書きたいと考えています。

——さっきお話に出た『案山子の村の殺人』などもクローズドサークルものではあるんですが、中心にあるのは基本的な犯人当てですよね。それをしっかりやられていて、基礎の部分をかなりしっかりと作り込まれていたという印象があります。そういうオーソドックスな作品がやはりお好きなんですね。

楠谷:はい。僕はアガサ・クリスティーに開眼した時期が遅かったんですが、大学生のときに霜月蒼さんの『アガサ・クリスティー完全攻略』を手にとりまして。そこから「クリスティめちゃくちゃ面白いな」って、オーソドックスの良さみたいなものを改めて感じたんです。最近もいろいろなものを読みながら、ときどき未読のクリスティーやカーを手に取るのが至上の喜びになっています。

——カーは不可能犯罪ものの巨匠と称される作家ですが、どのあたりから入られましたか。

楠谷:中学のときに『火刑法廷』だけ読んでいるんですけれども、当時どう感じたのかよく覚えてないくらいで。本格的にハマったのは大学生のときで、最初に「これめちゃくちゃ面白いな」って思ったのが『貴婦人として死す』(カーター・ディクスン名義)だったんです。プロットの中でのトリックの活かしかたが素晴らしい。もしかすると「ハウダニットの人」というイメージで敬遠していたのかもしれないけど、「今までごめんなさい」という感じで、最近はかなりカーも読んでいます。

——単なるパズルじゃなくて、小説としてその物語が書かれる中にアイデアがどう落とし込まれているか、ということに楠谷さんは関心をお持ちなんだと思います。小説として面白いというのは大事なことですよね。今回『無気力探偵』が再び世に出るということで、新しく手に取られることになる読者もいらっしゃると思います。そういう方に一言いただけますか。

楠谷:いろいろなミステリの面白さを感じていただきたいです。章のタイトルにミステリ用語をつけています。それは高校生のときの情熱が原点にあって、ミステリには本当にいろいろな面白さがあるということを表現したかったんです。ミステリの多様な魅力に気づいていただければ嬉しいですね。

楠谷佑

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