『葬送のフリーレン』『ポーの一族』に通ずる注目作ーー大河ファンタジー『鬼人幻燈抄』の魅力とは

4月からアニメシリーズの放送が始まった中西モトオの『鬼人幻燈抄』(双葉社)は、甚夜という男が江戸時代から平成に至る170年もの時間を生きて、鬼を相手に戦い続ける姿を描いた大河ファンタジーだ。悠久の時の中で甚夜が触れあう人たちのエピソードが、悲しみや喜びを誘って感動をもたらす。アニメ化を機に改めてシリーズの面白さを探る。
アニメ化決定で注目! 江戸時代から平成まで戦い続ける大河ファンタジー『鬼人幻燈抄』誕生の背景とは?
里見有のコミカライズで、声優・八代拓の名演で魅力が増した主人公・甚夜
江戸時代の天保元年。父親から激しい虐待を受ける妹の鈴音を連れて家を出た甚太は、元治という男に拾われ葛野(かどの)という村で暮らすようになる。成長した甚太は、巫女となった幼なじみの白雪を守る役目を担うが、実は甚太の母親が鬼に襲われ産んだ子だった鈴音は、兄への愛情が行き過ぎた形で現れ、鬼となって白雪を殺し葛野から消える。
原作では第1巻の『鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々』(双葉社)、TVアニメでは第一話「鬼と人」で描かれるエピソード。子供だった甚太が18才の青年となって頼もしさを漂わせるようになり、そこに八代拓の声が乗ったことで男性キャラ投票でもトップを争うようなカッコ良さを見せる。
さらに甚太は、最愛の白雪を殺し鬼となった妹を自分の手で葬るために鬼へと変じ、手にした宝刀「夜来」にちなんで名前も甚夜へと変えて葛野を出て行く。恐れられ討伐される可能性すらある鬼という正体を隠し、成長を止めた青年の姿のままで長い時を生きて、白雪の敵を討とうとする甚夜の陰のあるキャラクター性も人気の一因かもしれない。
小説の段階でも十分カッコ良かったが、里見有のコミカライズで絵として描かれ動き始めたことでカッコ良さが浮かび上がった。そして迎えたアニメ化で、池上たろうのデザインによるイケメンな甚夜がイケボを伴って大活躍し始めたことで、グイッと引きつけられた人も出たようだ。
なおかつ、そこで繰り広げられる物語が心を打つものだったことが、アニメから入ったファンを一気に作品の虜にした。江戸に出た甚夜は、実の父親にあたる重蔵という男の店に鬼が現れるので斬って欲しいという依頼を受け、子であることは言わずに仕事を果たす。その中で、人の心の中に巣くう疑いや迷いといった感情が、積み重なって鬼を生み出す悲劇が綴られる。人の肉を食う鬼が現れた事件では、相手が鬼だと知って夫に迎える女性の優しさに触れ、その優しさが妄念へと転じて鬼を生み出す悲しさも知って心をかき乱される。
作中で描かれる”鬼"とは
鬼とは何か。甚夜に自分の腕を付けて鬼へと変えた「〈同化〉の鬼」のように最初からバケモノとして登場するものもいるが、人間なら多少なりとも抱く妄執といえるような感情が高じて鬼へと変じるものもいる。そうならないために生きるにはどうすれば良いのかを、問いかけられているようだ。せめて斬られた鬼たちが、妄執から解放されて安らかな気持ちになってくれればと願いたくなる。
江戸の町で甚夜は、「喜兵衛」という蕎麦屋に通ってかけそばだけを注文し続ける。真面目そうだが少し堅苦しい感じも漂うが、そこに「甚夜くん」と呼ぶ蕎麦屋の看板娘がいて気持ちが和む。もっとも、敬称が「様」や「さん」でないのが気になるところ。実は看板娘のおふうには秘密があって、それが蕎麦屋の店主も交えたドラマチックなエピソードとして描かれる。小説を読んだりアニメを見たりした後で、そういう仕掛けだったのかと驚いた人も多いだろう。
同時に、鬼という存在が持つ年を取ることのない特性が、物語の上でどのように描かれるのかといった関心も誘われた。ひとり老いることなく長い年月を生き続ける存在の苦悩は、山田鐘人原作でアベツカサ漫画の『葬送のフリーレン』や、萩尾望都『ポーの一族』、高橋留美子「人魚シリーズ」などに描かれて、そこからどのように抜け出すのかといったドラマが繰り広げられる。
『葬送のフリーレン』で千年を生きるエルフのフリーレンは、ヒンメルと過ごした歳月が心を動かし、彼との再会という目的を抱いて旅に出る。『ポーの一族』のエドガーは妹のメリーベルを失ったものの、アランというパートナーを得て共に時代を超えて歩み続ける。吾峠呼世晴『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨も鬼となって長い時を生きる中で、配下の鬼を生み出しながら完全体になる方法を追い求める。
無惨の場合は、人間にとって危険すぎる存在だったことから竈門炭治郎ら鬼殺隊に撃たれて滅びる。鬼という意味では同じ甚夜も、立場的には狙われる側にいるが、同時に狙う側にもいることで狩られることなく、幕末から明治、大正、昭和、そして平成という時代を生き続ける。
その中で得た様々な出会いが、糸のように繋がって甚夜を時に支え、時に励ますようにして次の時代へと送り出し、鈴音との対峙という決着へと向かわせる。長命種を登場人物に持ち、時に苦悩にあえぐ姿を見せる一方で、移ろう世の中を見守り、そこに生きた人たちの思いを引き継いでいく語り部のような存在として甚夜を描いていることも、彼に心惹かれる要因だろう。























