東野圭吾『クスノキの番人』アニメ映画化のポイントは? 原作から読み解く、伊藤智彦監督への期待

派手な展開ではなく、日常芝居で見せるアニメになりそう
さて、この小説をいかにアニメ化するのかだが、アニメーションに向いた題材とは思わない人が多いのではないかと思う。じっくりと人間の機微を描いていくタイプの作品で、現代日本に生きる若者の葛藤や、高齢者の生き方などを丹念に描いており、普通に考えると、人間ドラマを演出できる監督が、生身の俳優を起用した実写の映像が思い浮かぶ内容だ。アニメで描けないことはもちろんないが、アニメでしか描けないという内容でもない。
現実離れした空想を具現化することならアニメの方が向いている。本作にはいささかファンタジーの要素はあるが、物語の核は生身の人間たちの等身大の物語だ。
この作品をアニメ化するのであれば、丹念にキャラクターの日常芝居で演出していく必要があるだろう。派手なシークエンスで見せるタイプの作品ではないので、脚本の構成も重要だ。クスノキをめぐるファンタジックな要素は、アニメで描くメリットが出やすいところだが、基本的には日常芝居で勝負する作品になるのではないか。
とはいえ、一目見ただけで何かを感じさせるような、印象的なクスノキをロケ地として見つけてくるのも至難の業かもしれない。そういう意味では、アニメに優位性があるとも言える。現在、キービジュアルとして公開されているクスノキのビジュアルは、荘厳さを感じさせ、ここには何かがあると一目で思わせる説得力がある巨木だ。これを実際に見つけてくるのは大変だし、ましてや神社に生えているものを探すのは困難だ。もちろん、実写映画でもCGでクスノキを作ることは可能だが、全て絵でリアリティラインを統一できるアニメの方が説得力のある映像になるかもしれない。
アニメはリアリティラインの設定が自由だ。思いっきりファンタジックな世界にすることもできるし、現実に即した世界観を描くこともできる。原作小説とアニメ版でリアリティラインを同じにするかどうかわからないが、色々とアレンジしがいのある内容だと思う。想いを伝える不思議なクスノキという設定を借り受ければ、無限に物語を生み出せるだろうし、アニメ化にあたって物語にアレンジを加えるのかどうか、気になるところだ。
伊藤智彦監督は、『ソードアート・オンライン』のようなライトノベル原作作品や、オリジナルの『HELLO WORLD』といったSF作品を代表作に持つが、一方で『僕だけがいない街』のようなミステリー作品も手掛けている。演出家として間口の広いタイプだと思うので、東野圭吾の小説をアニメとしてどう映像にするのか楽しみだ。
昨今、アニメは派手な演出とエフェクト、情報量を増やした映像が好まれる傾向にあるが、脚本を磨き上げて登場人物の心理を丹念に芝居で見せていく演出力で勝負できる作品は、そう多くない。この原作小説は、それに挑む必要がある題材なので、伊藤監督とA-1 Picturesがどんな芝居を作ってくるのか、期待している。






















