東野圭吾『クスノキの番人』アニメ映画化のポイントは? 原作から読み解く、伊藤智彦監督への期待

東野圭吾『クスノキの番人』アニメの注目点

 人気ミステリー作家、東野圭吾の『クスノキの番人』(実業之日本社文庫)がアニメ映画化されることが先日、発表された。

 これまで数多くの作品が映像化されてきた東野氏の小説だが、アニメ化されるのはこれが初めて。監督は『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』や『HELLO WORLD』といった作品で知られる伊藤智彦氏で、A-1 Picturesがアニメーション制作を担当する。

 東野氏の小説とアニメという組み合わせも伊藤監督という組み合わせも、意外性あるものと言えるが、果たしてどんな相乗効果を発揮するだろうか、原作となる小説の内容と、伊藤監督のこれまでのキャリアを振り返ることで考えてみたい。

人の念を媒介する不思議なクスノキをめぐる物語

 本作は、不思議な力を秘めたクスノキをめぐる人間模様を描く物語が紡がれる。シングルマザーに育てられ、貧しい生活を送っていた青年・玲斗は、不当な理由で職場を解雇され腹いせに盗みを働き逮捕されてしまう。そこに、突然弁護士が現れ玲斗を釈放に導く。その弁護士を手配したのは、千舟と名乗る年配の女性で、玲斗の叔母だという。彼はほとんど親戚とつきあいのない家庭で育ち、父親が誰かすら知らない。そんな自分に千舟は、とある神社にあるクスノキの番人をするように告げる。

 そのクスノキは満月と新月の日になると、祈念に来る人々が訪れる。その祈念とはなんなのか、玲斗は知らされないまま、他に仕事ができる当てもないので、言われるがままにクスノキの番人業務をこなす日々を送ることになる。

 ある日、佐治優美という女性が、自分の父がクスノキに祈念に来たかどうかを玲斗に尋ねてくる。その男性が何を祈念しているのか、2人は調べ始めるために、協力することになる。その過程で玲斗は、自分の出生の秘密や家族のこと、優美の父親について、祈念とは何かについて、徐々に知ってゆくことになる。

 あまりネタバレしたくないので詳述は避けるが、このクスノキは今は会えない人と心をつなぎ合わせることができる不思議な力を宿しており、この木をめぐる大きなファンタジー要素を抱えた作品だ。

 その上で東野圭吾氏らしいミステリー要素も見られる。クスノキの秘密、佐治親子の秘密や、主人公の玲斗と柳澤家の関係など、様々な謎がちりばめられ、一つひとつが絡み合い、一本の線となっていく。ファンタジー要素を持った人情ドラマを、ミステリー仕立てで描く作品で、東野氏の過去作では『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に近い作風の内容と言える。

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