速水健朗のこれはニュースではない
村上龍『昭和歌謡大全集』登場人物のモデルにも……TOKYO FMプロデューサー・延江浩との思い出

ライター・編集者の速水健朗が時事ネタ、本、映画、音楽について語る人気ポッドキャスト番組『速水健朗のこれはニュースではない』との連動企画として最新回の話題をコラムとしてお届け。
第26回は、村上龍『昭和歌謡大全集』と、ある名ラジオプロデューサーの話。
『昭和歌謡大全集』の登場人物のモデルとなった人

若者グループにはイシハラ、ヤノ、ノブエと、カタカナで名付けられた登場人物が出てくる。彼らは、ノブエのアパートに集まって、ちょいちょいカラオケ大会を開いている。一方のオバさんたちは「ミドリ会」。全員がミドリという名前を持っている設定だ。
この小説の構造は、山田風太郎の『甲賀忍法帖』と同じ。伊賀と甲賀の忍者たちが10対10で殺し合う。村上龍はそれを若者と中年女性でやった。で、最終的にどうなるかというと、生き残ったイシハラとノブエが、ヘリコプターで調布駅に爆弾を落とす。若者たちは、最終的ににテロリストになる。
この「ノブエ」の名前の由来が、TOKYO FMの『村上RADIO』のプロデューサーの延江浩だってことは、ラジオの業界の人たちは、あまり知らない。ノブリンって僕らは呼んでいる。最初に会ったのは、7、8年前。『愛国とノーサイド』という本をノブリンが書いた頃。本の中身は、シティポップと呼ばれるような70年代の音楽に関わった人たちと戦前の保守の思想家、頭山満のかかわりについての本だ。この本がおもしろかったので、ぜひ著者をゲストに呼ぼうってディレクターに提案したら、ディレクターが下のフロアからノブリンを連れてきた。彼はなんとラジオ局の人だった。最初は知らなかった。
のちに僕はTFMの朝の「クロノス」って中西哲生さんと高橋万里恵さんの番組の金曜日担当のMCをすることになるんだけど、ノブリンは、その起ち上げプロデューサーだった。僕がMCになったころは、もう外れていたけど。
そして僕が10年くらいTFMのレギュラー出演者だった間に延江さんは、プロデューサーで、いろんな番組を企画していた。年に1回くらい、ばったりTFM内で会ったり、何度か自分の番組の打ち上げにも来てくれた。他の出演者と一緒に半蔵門のジェットストリームって局内のレストランで、飲んだりしたこともある。15歳ほど年上で、友だちまでは行かないけど局で特に仲良しだったスタッフのひとり。
ノブエが延江さんだと気づいたのは、知り合って3年ほど経ってからだった。『昭和歌謡大全集』を読み返していて、「あれ、このノブエって…」と気づいた。ちなみに彼は『半島を出よ』にも登場するし、イシハラやヤノも、当時の編集者の名前から取られている。村上龍が周囲の人たちの名前をそのまま使っていたわけだ。ノブリン本人にLINEで聞いたら、「そうだよ」と。幻冬舎文庫版では、自身が後書きも書いている。



















