年金生活者からパパ活女子まで、お金がいくらあれば「幸せ」? 原田ひ香に聞く、多様な『月収』のリアル

原田ひ香に聞く、多様な『月収』のリアル

投資や節約ばかりでモノを買わなくなると、投資先もない

――後半では一気に月収が100万円まであがり、26歳パパ活女性が登場します。なぜパパ活を描こうと思ったのでしょう。

原田:どうせなら全然違うレベルの人がいても良いかなということで、月収100万にしました。

――パパ活の方の取材なども行ったのですか。

原田:パパ活についてはコロナ禍にNHKの『ノーナレ』という番組でパパ活の人たちの特集をやっていた中、今回小説に登場するアンケート調査みたいなものが紹介されていて。実際に大人の関係になるのがアリかなどの条件で振り分けられるらしく、そこでうつった文章を参考にアレンジしています。また、先日もXですごいなと思ったパパ活のアカウントを見つけたんですが、おもいきって最初の食事も割り勘でいいですとか1個入れると、たくさんのパパさんと会うことができますよというんですね。条件を下げて、「この子いい子だな」と思わせて実際に会ってみると、長い契約をしてくれる方もいらっしゃるそうです。

――なかなか生々しい話ですね……。そして、次が月収300万円の52歳です。

原田:彼女は連載当初、小説家にしていたんですね。でも、小説家が2人出てくるのはバランス的に良くないと思い、起業してタワマンに住んでいる女性にしました。コロナになる前やコロナ初期に値下がりした際、上手に物件を買った方などの中には、実際にこんな感じに投資で暮らしている方がいらっしゃいます。それと、年収5000万の人のnoteを見ていたら、税金などを払うと月収300万ちょっとで、「ちょっと使ったぐらいじゃお金は減らない」と書いていたんですよ。いくらのものを買ったとかも考えない、そんな生活もあるんじゃないかなと思いました。

――お金を持っている人のほうが空虚感を抱いていて、楽しくなさそうで、お金が好きでもなさそうなのも面白いですよね。

原田:この小説を書く少し前に『きみのお金は誰のため:ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)というベストセラー本を書かれた田内学さんと対談でお会いして。私はこれまで基本的に節約マインドで小説を書いてきましたが、田内さんは、皆さん一生懸命節約して、それをなんとか投資することにばかり目がいっているけど、特に若いうちにそればかりしていると、投資する先もなくなるとおっしゃるんです。商品やサービスを作って売るのが商売の基本で、だんだん成長していくところに投資をするわけですが、みんなが投資や節約ばかりでモノを買わなくなると、投資先もないですよと。本当にそうだなと思ったので、今回の小説も最初は節約話から始まり、途中からはちょっと違う方向に向かっていきます。

――「お金では買えないこと」が描かれますが、この本の示す内容はふんわりした理想論じゃなく、もっと切実な話ですね。

原田:お金では買えないことというと愛とか健康とか言いますが、そうではなくて。田内先生は、お金を持っていても、コロッケを作ってくれる人がいない、その原材料となるジャガイモを作ってくれる人がいないとなると、コロッケもどんどん値上がりしていくし、そのうちコロッケを1万円出しても買えない事態が起こるとおっしゃるんですね。そう考えると確かに、お金じゃ買えないものがあるというか、「お金では買えなくなる」んですね。

――円安とインバウンドによって、すでに日本人には手が届きにくくなってきているものもありますもんね。

原田:私自身、先日新幹線で名古屋駅から東京に戻ろうとしたところ、3連休の最終日だったせいか1個も席がなかったんですよ。グリーンでも良いかと思ったら、グリーンも満席で。でも、その日に帰らないといけないので、自由席で1時間半ぐらい立って帰ってきたんです。お金では買えない、お金があっても買えないというのはこういうことで、10年後20年後、こういうことが多くなっていくだろうとしみじみ考えました。

――お金にまつわる小説を書かれたのは三冊目でしたが、なぜお金について書き続けるのでしょうか。

原田:1つには、新しいトピックスが出てくること。今回の場合は新NISAの登場があり、節約だけではない話を書きたくなったというきっかけがありました。他には、XとかYouTubeとかに出ている人たちを見てメモしておくと、新しい切り口が出てくるんですよね。ただ、今回の小説には出ていませんが、東京のマンションの高騰も気になっています。お笑い芸人の方が言っていたんですけど、やっと売れたから億ションを買おうと思って物件を見せてもらったら、都心部だと今は1億出しても普通のマンションしかなかった、と。1億出したら、30畳ぐらいあるリビングや、ガラス張りで東京の夜景が一望できるみたいなマンションのイメージあるのに違った、と。1年2年お金のことを書かずにいると、そうした新しいトピックが溜まってくるので、まとめるみたいな感覚です。

――日常生活を見ても、コメ不足・コメの高騰が起こるなど、ここ数年でモノの値段も高くなるばかりで、先が読めない状況になっています。お金の小説を描くことでどんなことを大切にしていますか。

原田:本当に先が読めないですよね。実は『婦人之友』さんで家計簿について何か書いてほしいというご依頼をいただいて、私はお米5キロ3900円と書いていたんですけど、3カ月後くらいにゲラがきたとき、「すみません、今は4500円になっているので、変えてもらえませんか」と言われたんです。3カ月で3900円から4500円に変わったって、すごいことですよね。私は日頃、業務スーパーにばかり行きがちですが、そうすると業務スーパー基準になってしまい、感覚がズレてしまうから、普通のスーパーにも行くようにしています。また、特に今回の最後2章では節約ばかりじゃなく、もっと先のこと――もっと社会に貢献するようなお金の使い方もあるんじゃないかと起業や社会なども踏まえた物語になっています。

■書誌情報
『月収』
著者:原田ひ香
価格:1,870円
発売日:2025年2月21日
出版社:中央公論新社

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