【漫画試し読み】70年代の少年少女にトラウマを植え付けた傑作選『毛糸のズボン』著者・直野祥子インタビュー

『毛糸のズボン』直野祥子インタビュー

 とんでもないことをしてしまった…。そんな幼いながらに感じる罪悪感や心理状態を描き、70年代の少年少女にトラウマを植え付けた直野祥子先生。

 約50年の時を経て、屈指のトラウマ回と名高い『マリはだれの子』『毛糸のズボン』『はじめての家族旅行』などの傑作選を収録した『毛糸のズボン ——直野祥子トラウマ少女漫画全集』(ちくま文庫)が発売され、話題を呼んでいる。

 今回は直野祥子先生にインタビュー。貴重な当時の裏話や創作の源流について振り返ってもらった。

収録作『マリはだれの子』を読む

自分にとっての「こうなりたくない」を描いている

直野祥子先生

――まずは、ご自身の作品が約50年の時を経て『毛糸のズボン――直野祥子トラウマ少女漫画全集』として発売された今のお気持ちをお聞かせください。

直野祥子(以下、直野):ありがたいとしか言いようがないです。漫画は描き終えたら通り過ぎていって、それきりになるもの。だから、こうして蘇ってきたというのは本当にありがたいことです。私の作品をずっと覚えていて声を掛けてくださった頭木弘樹さん、推薦してくださった斎藤真理子さんに感謝です。

――「当時の思い出が蘇る」「トラウマになる怖さ」など、当時の読者はもちろん、新規読者からも絶賛の声が続出している本作ですが、何が創作の起点になっているのでしょうか?

直野:自分にとっての「こうなりたくない」を描いています。私自身がすごく心配性なので、常日頃から感じていた、もし起きたら一番嫌なことを漫画にしていたのだと思います。今、改めて読み返してみても、作品で描かれていることが実際に起きたら嫌ですね(笑)。

――1作品目に収録されている『マリはだれの子』(別冊なかよし)もまさにそうですよね。両親と顔が似ていない、自分はだれの子なの? と幼少期に抱きがちなリアルな不安から始まるお話だからこそ、衝撃的なラストが一層刺さります。

直野:この作品を描いた時は、ちょうど姉に2人目の子どもが生まれた頃で、それがヒントになりました。もちろん、作品の元になるような事件は起きていませんが……。

――収録作のなかで特にお気に入りの作品を挙げるとしたらいかがですか?

直野:お気に入りと言いますか、安心して人にお見せできるのは『宿題』です。この作品は誰も死にませんからね。人が亡くなるのはやっぱり一番嫌なことですし、本当に怖いことだと思います。

「月刊漫画ガロ」でデビュー、創作の源流に迫る

――巻末では、ご自身の作家としての歩みについても振り返られていましたが、デビューが少女漫画雑誌ではなく「月刊漫画ガロ」だったということに驚きました。

直野:そうなんですよ。友達がガロに応募するって言うから面白そうだなと思ったんです。

――デビュー前後でアシスタントなどのご経験は?

直野:ないですね。アシスタント経験はもちろん、アシスタントを雇ったこともありません。アシスタントってどうしても先生に似てくるじゃないですか? 人から影響を受けたり、逆に自分が与えてしまうのがどうにも苦手で……。

――なるほど。では、直野先生にとっては何が創作の源流になっているのでしょうか?

直野:今思うと、映画が一番のベースかもしれません。実は漫画はあまり読まなくて、映画が大好きでよく観ていました。だから、漫画を描く時もまずは頭のなかで映画を作って、それを絵にしていくような感覚なんです。

――言われてみれば映画的だと感じる演出がたくさんあります。特に『はじめての家族旅行』の終盤を思い出しました。

直野:そういったシーンも、漫画ではなく映画のワンシーンとして作るんです。脚本、監督、撮影、全てを自分でできるからとても面白いですよ。

――特に影響を受けた映画作品をあげるとしたらいかがですか?

直野:昔、テレビで放送されていた「ヒッチコック劇場」という番組が特に好きだったので、少なからずその影響は受けていると思います。特に『小指切断ゲーム』というお話が印象に残っています。

――なんだか合点が行くと言いますか、直野先生が描くホラーの源流を垣間見た気がします。

直野:実は、私自身はホラーではなくどれも普通のお話だと思って描いていました。かなり昔のことなので詳しいことは覚えていませんが、当時は「これが描きたい」から始まって作品を描いているんです。それで、当時好きだったヒッチコックみたいな作品をイメージして描いていたように思います。もちろん、真似しても足元にも及びませんが。

――なるほど。強いて言うなら心理サスペンスものをイメージしていたと。

直野:そうですね、心理サスペンスとも言えますね。

――その他に当時の思い出がありましたら教えてください。

直野:本当に昔のことだから詳しいことは覚えていなくて。だから、今日は当時書いていた日記を読み返してきたんですよ。収録作『血ぞめの日記が空に舞う』にも日記が登場しますが、私が学生の頃は日記がブームで、その影響でつい最近まで日記を付けるのを習慣にしていたんです。当時の私は日記に「(漫画が)描けたから頑張ろう」と書いていたので、一応頑張るつもりで漫画家をやっていたみたいですね(笑)。

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