“美術解説するぞー”がGakken『世界のスゴイ彫刻』を解説 「まさに美術作品のジェットコースターのような本」

美術解説するぞーが『スゴイ彫刻』を解説

ごちゃまぜだからこそ一部を隠せばクイズにも

『意味がわかるとおもしろい!世界のスゴイ絵画: ソフトカバー版』(著:佐藤晃子・絵:伊野孝行/Gakken)

 そして本書の最大の特徴が、古今東西、古いものから新しいものまで、まんべんなく収録している点。これは先に発売された『意味がわかるとおもしろい! 世界のスゴイ絵画』も同様で、地域や時代の多様性にとどまらず、実に多様なジャンル、多様な技術のつまった作品が順番関係なしに、約70点も紹介されています。いい意味でごちゃごちゃとしていて、「薬師寺薬師三尊像」のようなゴリゴリの宗教彫刻があったかと思うと、大理石で作られたシロクマの彫刻があったり、古代エジプトファラオの妃をモデルとした作品があったり。最後にはあのハチ公像も登場します。

 一般的なキュレーションは時代ごとに並べていって、グラデーションのように徐々に変化していく様を見せていくのが王道です。博物館やコレクションに足を運ぶと、その方向性を感じられることが多くあるでしょう。対して、本書の構成は実にバラバラです。ここまでたくさんの彫刻を、バラバラの順番で続けて楽しめることは中々ありません。きっと面白い鑑賞体験になるはずです。小さな子と楽しむなら、文字の部分を手で隠し、写真だけを見せて、「これはどこの国の彫刻でしょう」「これはいつの時代に作られたものでしょう」と、クイズ形式で会話していくといったこともいいかもしれません。これだけバラバラの並び、多様な作品群だからこそ広げられる楽しみ方です。

美術作品のジェットコースターのよう

 「妄想対談」というコラムページもユニークです。そして実は勉強になる内容でもあります。ロダンとミケランジェロの対談が入っていますが、ふたりは別時代の人物なので、現実的には対談できていません。それを「もしもこのふたりが対談したなら」と進んでいきます。ここで大切なのが、単に有名人を組み合わせたわけではなく、実際にロダンはミケランジェロからとても影響を受けていると言われていること。このことは第三者目線で語られることはよくありますが、ここでは影響や尊敬、ふたりの関係性を、妄想の会話で展開されています。ロダンに「あなたは私に筋肉の表現の仕方を教えてくれた恩人です」といった内容のことを言わせてみたりする。説明だと頭に入ってこないかもしれないことを、会話させるというアプローチによって、いつの間にか頭に残る仕組みになっています。

『意味がわかるとおもしろい!世界のスゴイ彫刻 』(著:佐藤晃子・絵:伊野孝行/Gakken)P70-71「ロダン×ミケランジェロ妄想対談」

 美術鑑賞は、法則がなく自由奔放で放任的なものと思われていることが多々ありますが、実際には型や文法のような法則が見られます。僕もその見方を自著で勧めていますが、まず一歩目としてはいろんな作品に出会うことも大切です。本書は実際に美術館に行かなくても、こんなにもたくさんの彫刻を見られて、「本当にいろんな表現があるんだね」と楽しむことができる。パッと見て、タイトルと写真で視覚的に楽しめるし、順番に読む必要もありません。僕自身も、並べ方でこんなにも出会い方が違うんだなというのは新鮮でした。まさに美術作品のジェットコースターのような本だと思います。


▪️鈴木博文(美術解説するぞー)

美術解説するぞー(鈴木博文)氏

東京学芸大学教育学部美術専攻卒。公立中学校正規美術教員として勤務したのち、「子どもよりもまず大人に美術の楽しさを知ってほしい」と 2022年2月に退職・独立。「美術解説するぞー」として、誰もが制作を楽しめる教室「×art | かけるアート」を運営しながら、「なんとなくからなるほどへ」をモットーに、SNSなどで美術史や美術鑑賞が楽しくなる「視点」をわかりやすく解説。ワークショップや、講演も行う。昨年は『現代アートがよくわからないので楽しみ方を教えてください 9つの型で「なにこれ?」が「なるほど!」に変わる』を出版。こちらは5ヶ月で5刷出来、発行部数1万5千部突破。近日中に韓国での翻訳出版も控えている。
https://lit.link/bijutukaisetu

『現代アートがよくわからないので楽しみ方を教えてください 9つの型で「なにこれ?」が「なるほど!」に変わる』(鈴木 博文(美術解説するぞー) /日本実業出版社)

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