速水健朗のこれはニュースではない
トランプとニクソンの相似点とは? アメリカで最も嫌われた大統領の権謀術数

ライター・編集者の速水健朗が時事ネタ、本、映画、音楽について語る人気ポッドキャスト番組『速水健朗のこれはニュースではない』との連動企画として最新回の話題をコラムとしてお届け。
第23回は、アメリカで最も嫌われた大統領・リチャード・ニクソンについて。
「サイレント・マジョリティ」を意識した選挙戦
1960年代や1980年代が好きな人は多いが、1970年代はどうだろう。アメリカ人の多くは、語るに値しない10年間だと考えているらしい。ひどい服装、ひどい髪型、ひどい音楽、ひどいダンスの時代。身体にぴったりし過ぎたのに裾が広がったパンツ、大きすぎる襟。髪型は、男女ともにカーリーヘアやロングヘアが流行した。音楽はハードロックやディスコミュージック。確かに奇抜な時代だが、僕にとっては一番好きな時代でもある。

この時代を再現する映画やドラマも近年増えている。『ボヘミアン・ラプソディ』『バトル・オブ・セクシーズ』『セプテンバー5』『エルヴィス』。最近ではHBOの『ホワイトハウス・プラマーズ』を観た。ウォーターゲート事件の盗聴侵入事件の首謀者を主人公にしたブラックコメディで、シリアスな事件の印象が一変する。犯人はこんなやばいやつらだったのかとずっこける話だ。
70年代初頭はニクソン政権時代。彼は史上最も人気のない大統領とされるが、1973年にノーベル平和賞にノミネートされている。受賞には至らなかったが、前年の米中国交正常化が評価された。しかし、その時期にはすでにウォーターゲート事件が大騒ぎとなっており、賞を受けることはなかった。
ニクソンが二度も大統領選で当選したのは、アメリカ人が彼を選んだからだ。1968年、公民権運動や反戦運動が盛り上がる中、共和党の大統領が選ばれたのは、多くの人がこれらの動きを快く思っていなかったから。トランプが大統領になった時代とよく似ている。
1971年、民主党のケネディ、ジョンソン政権が国民を欺きながらベトナム戦争を拡大し、連邦政府による秘密工作を行っていたことが記された機密文書の存在を『ニューヨーク・タイムズ』がスクープした。ペンタゴン・ペーパー事件。これにより、政府が莫大な予算を戦争に注ぎ込んでいることが明るみに出た。
一方、ニクソンは「サイレント・マジョリティ」を意識した選挙戦を展開した。「機械工の夫を持つオハイオ州デイトンの47歳のカトリック主婦」。彼が狙ったターゲットは、ラストベルト(ペンシルバニア、ミシガンなど五大湖周辺の中西部)とサンベルト(ノースカロライナ、ジョージアなど南部)。このエリアを制した党が勝利する構図は今も変わらない。むしろ、この時代にラストベルトとサンベルトの人口が急増し、大統領選の重要エリアとなった。それを意識した最初の大統領がニクソンだったということ。






















