速水健朗のこれはニュースではない
トランプとニクソンの相似点とは? アメリカで最も嫌われた大統領の権謀術数

トランプはニクソンを尊敬しているが……
郊外で生活する白人の労働者層。彼らを「白人至上主義者」と決めつけるのは間違っている。そもそも政治や投票に深い関心があるわけではない。古き良きアメリカへのこだわりすら低い。むしろ、若者の風紀の乱れ、ポルノやドラッグの蔓延、移民による治安の悪化など、都市部の問題を心配している層。白人至上主義ではなく、都市嫌い層といえる。
強いて言えば、都市部で起きていることが社会全体を悪くするということに心配を寄せている。「生活保守層」。
この「サイレント・マジョリティ」をターゲットにした選挙をトランプは真似したのだ。外交も完全コピーだ。独裁者とのサプライズ外交。1期目では、金正恩と握手した。2期目のトランプは、プーチンと握手を行うかもしれないが、これもニクソンの真似だ。ニクソンは、突然、毛沢東に会いに行って世界を驚かせた。ちなみにホワイトハウスは、これを衛星中継するつもりだったが、中国側が断った。映画『セプテンバー5』と同じ1972年の出来事。
1970年にエルビス・プレスリーは、ホワイトハウスを訪ねていった。エルビスは自分を麻薬取り締まり局の捜査官に抜擢しろと交渉しにホワイトハウスに訪問した。この唐突な行動は、カニエ・ウェストを髣髴させるところがある。当時のエルビスは、若者文化が嫌いだったようだ。
ニクソンはプレスリーの境遇に共感したと言われるが、基本的にロックンロールには関心がなかった。なのでトランプとカニエほどの関係にはならなかった。ちなみに、この時期のエルヴィスは低迷していたが、直後に復活を遂げた。捜査官にならなくて正解だった。
その前年には、意外な人物がホワイトハウスに招待されている。「A列車で行こう」で知られるジャズミュージシャンのレジェンド、デューク・エリントンだ。彼の70歳の誕生日パーティーがホワイトハウスで開かれた。エリントンはかつてフランクリン・ルーズベルトのために組曲を作ったが、ケネディ暗殺時に民主党に連絡を取ろうとして無視されたという過去があった。このエリントンの民主党との不仲を知っていたのか、ニクソンは晩年のエリントンを招待した。
ニクソンの話をしたのは、トランプとの相似が興味深いと思ったからだ。トランプはレーガン時代のアメリカを理想と考えていると言われているが、実は忠実に真似ているのはニクソンの方だ。彼はニクソンへの尊敬を公言しつつ、自分は彼とは違うとも言う。ニクソンは人付き合いが下手だった。だからウォーターゲート事件が発覚したとき、彼を擁護する者はほとんどいなかった。でも自分は人付き合いがうまい。だから皆が自分をかばってくれる。俺はニクソンほど嫌われていない。なるほど。
■書籍情報
『これはニュースではない』
著者:速水健朗
発売日:2024年8月2日
※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格:本体2,500円(税込価格2,750円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:A5変/184頁
ISBN 978-4-909852-54-0 C0095























