速水健朗×久保友香が語る、ヤンキーとギャルと大量生産テクノロジー「人には他人と同じものが欲しいという欲望がある」
『これはニュースではない』(blueprint)を刊行したライター・編集者の速水健朗と、『ガングロ族の最期 ギャル文化の研究』(イースト・プレス)の著者でメディア環境学者の久保友香のオンライントークショーが12月27日に開催された。
オンライントークショーのアーカイヴ配信は1月10日まで! blueprint book storeにて『これはニュースではない』発売中
『これはニュースではない』は、時事ネタ、本、映画、音楽について論じた「時評集」。テイラー・スウィフト、大谷翔平、イーロン・マスク、オッペンハイマー、ドラえもん、アレサ・フランクリン、サブカルマウンティングおじさん、町中華ブーム、オーバーツーリズム、週刊文春……などが、軽妙洒脱に鋭い視点で考察されている。
『ガングロ族の最期 ギャル文化の研究』は、戦後日本のメディア環境と日焼けスタイルの歴史から、ギャル文化の源流をスリリングに読み解いている。「ガングロ・ギャル」はどのようにして生まれ、そして消えていったのか。その記録と証言、コミュニケーション・テクノロジーなどが論じられた。
両氏のオンライントークショーでは、そうした著作の内容を皮切りに、ヤンキー文化とギャル文化の類似点、最新のメディアやテクノロジーの考察など、多岐に渡る内容をめぐって議論が展開された。本記事ではその一部を抜粋紹介したい。
大量生産のテクノロジーに魅せられて
速水:久保さんが(女性のビジュアルの)「盛り」を論じる時、自身の立場は観客のようで、当事者ではないですよね。基本的に関心はテクノロジーにある。そこが実は僕との共通点なのかなと思っていて。(参考書籍:『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』太田出版)
久保:私もそうだと思っています。テクノロジー、特にマスプロダクションに関心があるんです。
速水:僕も大量生産大好きっ子なんですよ。
久保:そうですよね。大衆的なものの価値や美しさの話をしていると思っていました。今日は速水さんにそこを確認したかったんです。
速水:僕はフェティシズムに近い大量生産への関心があるんです。例えば、欲しいものに関しても量産タイプにしか興味を持てなくて。でも普通、車とかでもスペシャルエディションに人気があるじゃないですか。GTとかType-Rとか。でも僕は売れてる通常ライン、インラインモデルが欲しいタイプです。いつかはカローラって思っている。
久保:芸術性のあるものではないんですよね。速水さんが『都市と消費とディズニーの夢』(角川書店)でショッピングモーライゼーションを論じているのには感動しました。映画の『シザーハンズ』を論じる時に、1950年代のアメリカでニュータウンができたことに着目します。いろんな地域から人が集まってきて、同じ家/同じ車を持つことで共同体を作ったという話がありました。そういうのに私は感動するんですよね。私の場合、一つ例をあげると、ヨハネス・グーテンベルク(1398〜1468/活版印刷技術の発明者)が大好きなんです。
速水:ヨーロッパから見るとアメリカって量産品であふれている国にしか見えない。でもそこにこそ浮かび上がるユートピアを『シザーハンズ』の街はうまく描いている。
久保:聖書はそれまでは手書きで写した写本でした。そうじゃなければ、神聖じゃないとされていた。だからグーテンベルグが機械でやろうとしたら「それじゃ神聖じゃなくなるだろう」と言われたわけです。それでも、みんな使い始めました。それは、みんな同じものを持ちたいということだと思うんです。
プリクラも同じです。プリクラというと「女の子たちが美人になりたいんでしょう」とよく言われます。でもそれよりも、プリクラでみんなで同じような顔になることが、楽しくて嬉しいんですよ。それが私がプリクラにすごく惹かれたところでした。
速水:人は個性的なものを求めていると思うからメーカーやブランドは、「スペシャルエディション」をつくるんだけど、実際は人には他人と同じものが欲しいという欲望がある。でも久保さんの話はもう少し入り組んでいて、量産品としての自分にこそ「個性」を見出そうとするってことですよね。
久保:速水さんがショッピングモーライゼーションやラーメンなどの切り口で論じているのを読んで、学ばせていただいています。
速水:最近新装版が出たジョージ・リッツアの『21世紀新版 マクドナルド化した社会: 果てしなき合理化のゆくえ』は、合理化を突き詰めたシステムが、単にチェーンとして広がっているだけでなく、その原理がアメリカの文化として浸透したという話を書いてます。おもしろい話ですけど、もう少しマクドナルドを褒めてもいいのになって思って読みました。
久保:褒めているわけじゃないですよね。
速水:合理化とか近代化とかグローバリズム化の話って、批判してなんぼになってしまう。そうするとどうしても話が薄っぺらくなるなって思います。
久保:そうですね。確かに速水さんの著作はそういう部分を否定しないですね。あえて肯定もしていないんですけど。真実を述べている。
速水:おもしろいなってのを優先しますからね。
ヤンキーとギャル、リアルとバーチャルが入り混じる存在
久保:『これはニュースではない』のリアリティ番組を論じているところでは、ヤンキーについて、全員が「自分は偽物だけど他のやつは本物だ」と思っているコミュニティだと指摘していました。これはとても興味深いと思ったんですが、どういうことですか。
速水:これは、精神科医の斎藤環さんが言っていることなんですが、ヤンキー同士が互いに「俺はなんちゃってだけど、あいつはちょっと本物だから」と言い合っているケースを論じてます。つまり、ヤンキーってなめられてはいけないというゲームに参加している人たちの集まりで、悪い奴風に強く見せているけれど、自意識としては「なんちゃって」だと思っている。それってラカンの話の、「欲望は他人の欲望」という話とつながってくる。なんかこの話は、ブルース歌手も同じかなって。
久保:そうなんですか。
速水:ブルースって奴隷としての苦しみを歌う分野だって思われているけど、歌っている人は、直接その生活を知っているわけじゃなくて、都会で生まれ育って、歌やギターがうまいからそれを演奏している。でも人は、ブルースの歌から懸命に奴隷の苦しみを見出そうとする。ヤンキーと似てるなって。
久保:でもお互いそう思っているというのは、面白いコミュニケーションですね。
速水:ヤンキーは、喧嘩せずにいかに強く見せるかって大事なんです。実はヤンキー漫画の『ビー・バップ・ハイスクール』もあまり喧嘩しないんです。「あいつはすごく強い」という噂話だけをしている。
久保:そうなんですか。私は戦ってるんだろうと思っていました。
速水:『クローズ』とはぜんぜん違う。
久保:そうなんですね。私も戦わない話の方が好きなんですよね。東映の任侠映画みたいな感じなんですね。
速水:久保さん、任侠映画をすごく見ているらしいですね。
久保:そうなんですよ。戦わないから好きなんです。でもそう考えると、ギャルもやっぱり「私は違うけど、あの子は本物」と言うんですよ。
速水:そうなんですね。それは一緒かもしれない。
久保:ただ、相手を立てるようなコミュニケーションかなと思っていました。ヤンキーの場合は、それとは違いますか?
速水:立ててるわけじゃないんだけど、リアルな諍いを避けるためのコミュニケーションがあるんだと思います。
久保:でもそれで最適化されてるコミュニティができていると。
速水:人は、自分で自分を演じてますよね。ギャルは天然でギャルだと思われたいけれど、自意識で作っているから自分ではなんちゃってだと思っている。久保さんが別のイベントでプリクラは作品づくりだって言っていましたけど、暴走族とかも改造した族車を「クラフトマンシップ」だって意識でやってます。
久保:記号で作られた作品であることを自覚していて、それで繋がりを作っているんですね。
速水:結局、ヤンキー同士は同じコードを確認し合っているコミュニケーション強者たちですよね。いまどきの『BreakingDown』を見ていてもそう思います。朝倉未来というカリスマを持つトップがいて、その側のひな壇のポジションを皆で競い合う。発言のタイミングなどで、空気を読めている奴が格闘技で強いこと以上に重要みたいな。
久保:リアルとバーチャルが入り混じっているということですね。リアリティを挟んで、リアルとバーチャルがあるのかな。みんな現実を生きているようで、現実を生きているわけじゃないんですね。
■配信イベント情報
速水健朗『これはニュースではない』× 久保友香『ガングロ族の最期』
オンライントークショー
出演者:速水健朗、久保友香
配信サービス:Zoomウェビナーにて配信
配信期間:2024年12月27日(金) 19時〜2025年1月10日(金) 23時59分(アーカイブ視聴可)
参加対象者:blueprint book storeにて書籍『これはニュースではない』を購入した方
刊行記念トークショー配信チケット付き『これはニュースではない』は、blueprint book storeにて発売中
■商品情報
『これはニュースではない』
著者:速水健朗
発売日:2024年8月2日
価格:2,750円(税込価格/本体2,500円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:A5変形/184頁
ISBN:978-4-909852-54-0