『星を継ぐもの』シリーズの最終巻『ミネルヴァ計画』はマルチバースをどう描く?

日本でも圧倒的人気を誇るジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』シリーズの最終巻となる『ミネルヴァ計画』。本作は、2005年に刊行されたシリーズ第5作『Mission to Minerva』の日本語訳版であり、2010年にホーガンが他界したことで、本作がシリーズの正式な最終巻である。
20年前の作品でありながらもそこで描かれているのは、現在も解き明かされていないマルチバース議論にも繋がる平行宇宙の存在だ。
『星を継ぐもの』は名作SF映画への不満から始まった
1980年に邦訳版が刊行されたシリーズ1作目の『星を継ぐもの』は、日本のSF界に衝撃を与えた名作。ホーガンの創造するSF的理論に端を発したミステリー小説だ。月面で発見された5万年前の遺体が、地球人とは異なるDNAを持つ——そんな謎めいた設定が、数々の科学的考察とともに読者を魅了し続けてきた。
シリーズ続編『ガニメデの優しい巨人』は、知的巨人生命体ガニメアンと人間の交流を通じて人類の起源や太陽系の過去を解き明かしてゆく。3作目の『巨人たちの星』はさらに太古の地球の歴史に踏み込んでおり、社会や政治といったテーマが描かれる。
このシリーズが長年愛され続けた理由は、ただのSFエンターテイメントにとどまらない、深い知的探求とロマンがあるからだ。作者自身、『2001年宇宙の旅』の曖昧な結末に不満を抱いたことが創作のきっかけだったという。その哲学はシリーズ全体に通底しており、特に3作目までは、知的生命体との出会い、宇宙史という壮大なテーマに真正面から迫る圧巻のストーリーだった。
その後、出版された後日譚とも言える4作目『内なる宇宙』では、それまでの謎解きとは異なり、登場する文明の思想や価値観に深く踏み込んでいく。前作で地球人とテューリアンに蜂起を阻止されたジェヴレン人らの思想に迫り、コンピューターの作り上げた別の宇宙についても話が展開された。
無限に広がり、そして収束していくマルチバース
本作においても、それまでの登場人種たちの思想に迫る内容であったと言えるだろう。物語は、原子物理学者ヴィクター・ハント博士のもとに、別の並行宇宙に存在する自分自身からの突然の通信が入るシーンから幕を開ける。線上に複数に分岐している並行宇宙の歴史に収束する点があることを突き止めた博士と仲間たちは、『巨人たちの星』で登場した異星人テューリアンとともに、時空間移動の研究に挑む。





















