連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2025年2月のベスト国内ミステリ小説

梅原いずみの一冊:松城明『探偵機械エキシマ』(KADOKAWA)
重厚な社会派サスペンス町田そのこ『月とアマリリス』、過去と現在が交錯する南海遊『パンドラブレイン』、魔法と論理を組み合わせた紺野天龍『魔法使いが多すぎる』など、今月は秀作ラッシュだった。その中で本書を選んだのは、前作『蛇影の館』を超す著者のベスト作品と感じたから。連作短編集で、謎解きは本格的かつスリリング。殺人者をサーチ・アンド・〝デストロイ〟するAIが探偵のため、助手と記録係はその推理を先回りする必要があるのだ。特に第3話はこのテーマならではの展開で目を瞠った。松城明、要注目の書き手である。(梅原いずみ)
橋本輝幸の一冊:松城明『探偵機械エキシマ』(KADOKAWA)
黒い楕円体に4本の脚がついたロボット、エキシマ。「彼女」は取得した情報から殺人者を見抜き、敵とみなして攻撃しようとする。出どころ不明の謎多き存在だ。エキシマの所持者にして管理者である青年・空木は、彼女の推理を人間に通訳し、さらに犯人の命を奪わないように図る。
謎解き中心の連作ミステリ短編集。登場人物たちが機械の助手となり、機械を活用し、機械に愛着を持つ物語だが、事件そのものは人間同士のトラブルに起因するものが多く、SF色は濃くない。若者たちの交流や成長も描かれ、意外と明るくライトな部分もある。
杉江松恋の一冊:柚月裕子『逃亡者は北へ向かう』(新潮社)
ジョン・ボール『拳銃を持つジョニー』じゃん、と日本で百人ぐらいしか共感してくれなそうなことを行ってみる。シンプルな構造の警察小説だ。はずみで二人を殺してしまった男と彼を追う刑事。その捕物劇なのだが、問題はタイミング。事件が起きたのは東日本大震災の最中なのである。震災がなければ起きなかったはずの殺人事件だ。人の身に突然降りかかってくる災いと、それによって失われるものの大きさを被災地出身の作者が描く。その気迫の籠った筆致に圧倒された。あの震災を小説として書ける人がようやく出てきたことの意味も大きい。
7人中3人が一致しましたが、あとはばらばら。この結果は、打ち合わせなしゆえのものですね。シリアスな社会小説と特殊設定ミステリーが残りの4作を占めて、ちょっと不思議な結果になりました。

























