映画『ファーストキス 1ST KISS』シナリオブックから見る、坂元裕二作品の「手紙」の重要性

坂元裕二作品の「手紙」の存在

重要な「手紙」の存在

 その意味でも挑戦的な脚本だと序盤は感じるのだが、後半に入り、カンナと過去の駈が丁々発止のやりとりを展開するようになると連続ドラマ『最高の離婚』(フジテレビ系)等で描かれたあるあるネタを散りばめた男女の緊張感のある会話劇へと変わり、いつもの坂元節が全開となっていく。

 そして終盤になるとついに手紙が登場する。手紙の朗読は坂元作品においては歌のサビみたいなもので、書き手の気持ちが全開になり、物語上のカタルシスが生まれる。坂元作品には手紙が繰り返し登場するのだが、作品によって相手に届く手紙もあれば、相手に届かない、もしくは本人が出さない手紙も多く、届かない時は書き手の相手に対する気持ちが宙吊りにされる。

 坂元が会話劇を重視するのは他者との対話を通してお互いを理解する姿を描こうとしているからだ。しかし同じくらい彼は、絶対にわかり合うことができない他者を、恋人や猟奇殺人犯といった存在を通して描こうとしており、他者を理解しようと歩み寄った果てに生まれる苦い断絶を描くことによって、逆説的に他者の存在を記述しようとする。その意味で「届かない手紙」とは、他者との断絶を描いてきた坂元作品をもっとも象徴するアイテムだが、近作の手紙は「届くこと」の方が多いように感じる。

 この手紙というモチーフの変遷が、作家としての心境の変化なのか、物語上のテクニックの問題に過ぎないのかは、とても気になるところである。

 最後にシナリオブックのあとがきは、カンナを演じた松たか子と坂元裕二が執筆しているのだが、松は坂元について、坂元は松について書いているため、続けて読むと往復書簡のような面白さがある。

 あとがきによると、二人は数回しか合ったことがないそうだが、脚本家の書いたキャラクターを役者が演じ、台詞を発するという行為自体が「手紙のやりとり」に近いものなのかもしれない。

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