創刊100年「JTB時刻表」編集長・梶原美礼に聞く デジタル全盛の今、紙の時刻表を出し続ける意義
■紙の時刻表の雄、創刊100周年

今年で創刊100年を迎える「JTB時刻表」。JR、私鉄、バス、航空、船舶などの約900社の運航時刻を網羅し、鉄道ファンのみならず旅行好き必携の一冊だ。創刊したのは1925(大正14)年のことである。戦時中を除き、月刊のペースを守りながら現在も刊行し続けている時刻表としてはもっとも古い。
そもそも、日本最初の時刻表は1872(明治5)年に駅に貼り出されたものだが、この頃は非売品であった。その翌年に市販の時刻表が出て、1889(明治22)年には冊子状の時刻表が発売されている。
そして、1925(大正14)年に発売された「汽車時間表」が現在の「JTB時刻表」のルーツである。それまでは漢数字だった時刻が、算用数字で記された画期的なフォーマットで、このときに時刻表の原型は完成していたといえるだろう。
そんな「JTB時刻表」も、電子化が進む時代の波に翻弄されているが、意外にも堅実に刊行が続いている。スマホ全盛の時代に、紙の時刻表の存在意義はどんなところにあるのか。そして読者はどのように活用しているのだろうか。時刻表を愛してやまない編集長の梶原美礼氏に話を聞いた。
■創刊100周年を迎えて感無量

――「JTB時刻表」創刊100周年を迎え、率直な感想をいただけますか。
梶原:私は2001年に入社してすぐ、時刻表の編集部に配属されました。途中、部署が変わったこともありますが、編集生活の大半を時刻表編集部で過ごしています。その間、携帯電話やインターネットで時刻を調べるのが普通になり、最近では多くの人がスマートフォンで時刻を見ていると思います。時代が変化するなかで紙の時刻表が100周年を迎え、刊行できることは感無量です。
――梶原さんは、時刻表の編集部を希望して入社されたのでしょうか。
梶原:私は鉄道以上に旅行が好きで、学生時代の旅行のお供に時刻表を使っていました。そのことを就活の面接でアピールしたら、配属されたというわけです。
――梶原さんにとって、時刻表はどんな存在だったのでしょうか。
梶原:私の旅には欠かせない、大事なツールでしたね。学生時代はできるだけ安く旅行しようと考え、青春18きっぷや夜行バス、さらに学割もフルに使って旅をしました。当時は検索サイトも発達していませんでしたから、格安旅には時刻表が必須だったのです。
■旅慣れている人ほど時刻表は便利
――現在の「JTB時刻表」の発行部数を教えてください。
梶原:大きなサイズの通常版が3万4000部(定価は4月号から1500円)です。小さいサイズの小型版の部数は非公表なのですが、こちらの方が実は部数が伸びているんですよ。内容は通常版と一緒なのに値段が安く、しかも持ち運びがしやすい点が支持されているのかもしれません。青春18きっぷの時期を見据え、ユーザーが旅に持っていきやすいサイズ感を意識しています。通常版と小型版の2冊を買っている人もいますね。
――時刻表を“紙”で出し続ける意義はどこにありますか。
梶原:今では多くの人が、スマホの検索サイトで表示されたルートに従って旅行すると思います。実際、検索サイトは、最速ルートや最安ルートを出すことは得意ですよね。でも、旅の楽しみは最速や最安だけではないのです。途中下車を繰り返したり、寄り道しながら観光することもあります。そんな旅には、時刻表が最適だと思っています。
――スマホでは表示しにくい臨時列車なども多いですよね。
梶原:今、観光列車がブームだと思いますが、こういった列車はスマホの時刻検索に対応していないことも少なくありません。また、運行日や本数が限定的な観光列車を入れ込んだルートをスマホで出すのは至難の業です。時刻表はこういった列車の情報がひと目でわかりますし、慣れてしまえば行き方をスムーズに調べられます。
――漫画『鉄子の旅』で有名な鉄道ファンの横見浩彦さんは、「JTB時刻表」を毎号買っておられましたし、旅にも持ち出していましたね。
梶原:横見浩彦さんは当社の時刻表を愛用してくださっています。横見さんは駅巡りをなさっている方ですが、列車の本数が少ないローカル線ですべての駅に行こうとすると、駅で降りて、次の駅まで歩いて、列車に乗って、駅で降りて、また歩いて…と複雑な行程を繰り返すんですよ。こういった時に、上り列車と下り列車をうまく組み合わせて時間を有効に使うという調べ方もできるので、時刻表は便利ですよ。時刻が一覧になっているので、スマホで一回一回検索するよりもスムーズなのです。
――やはり、紙の時刻表の愛用者は鉄道ファンが多いのでしょうか。
梶原:鉄道ファンだけかな…と思うこともありますが、ゴールデンウィークや旅割キャンペーンのような時期は、ほかの号よりも売り上げが伸びるんです。肌感覚ではありますが、企業はもちろん、個人でも買ってくださっている方の需要は多いのでは、と肌感覚で感じています。また、ダイヤ改正号は今でも定期的に買っている方が多く、部数も大幅に増えます。