大友花恋「いろんなご縁がつながって、自分の個性にたどり着きました」 自身初のフォト&ストーリー集『ハナコイノベル。』

「自分の人生を生きてきたからこそ書けたことばかり」

――『ハナコイノベル。』の文庫本を手に取った感想はいかがですか。
大友:今回は本づくりの工程を全部見せてもらったんです。「帯はどうしますか」とか、本ができあがるまでにこんなにたくさん決めなくてはならないことがあるのかと勉強になりました。本の値段もこうやって決まっているのか、と。企業見学をしている気分でした(笑)。
――ますます本が好きになりそうですね。
大友:なります(笑)。本を手に取った時、表面の質感や紙の厚みなどにも意識が向くようになりました。本によって紙の手触りが全く違ったりしますから。
――『ハナコイノベル。』の紙はとても手触りがいいですね。
大友:この紙、私も好きです。カラーのページもたくさん作っていただきましたし、新しく書き下ろした「続・自伝」の写真も撮り下ろしなのですが、連載の最終回(第28回)に載せた「自伝」の時と同じスタッフさんに集まってもらったんですよ。デザイナーさんもこの連載を通してやってくださった方で、打ち合わせの際は『Seventeen』時代の担当編集さんも来てくださった。だから本当にすべてつながっているんです。

――「続・自伝」のほかにも新作を書いたそうですね。
大友:連載した短編をまとめて一冊の本にしましょう、そこに新しい小説も入れましょうという話が持ち上がってから5本書きました。5本とも連載していた当時に近い感じの短編だったのですが、どれを文庫に入れましょうかと打ち合わせをする中で、以前の連載を意識しないで、もう少し長い小説を書いてもいいのではないかという話になりまして……。それが「続・自伝」になったわけです。
――「続・自伝」の中身は実話なのですか。
大友:全部が実話というわけではありませんが、いろんな経験を積んで、自分の人生を生きてきたからこそ書けたことばかりなのです。だから、いわゆる作り話ではありません。
――伊豆諸島の八丈島が舞台になっていますね。
大友:八丈島には一度番組のロケで実際にお邪魔したことがあります。その際においしいレモンをいただいたりして、その景色が自分の中にずっとあるんですよ。長めの新しい小説を書く、しかも自分の話として書いてみようと思った時、ふと八丈島の景色が浮かんで……。そこから書き始めました。
――もう一度、八丈島に行ってみたいという思いがあったわけですね。
大友:そうですね。書き始めた時は、主人公の名前を「花恋」にしていたのですが、そうすると「あまりにもストレートすぎる印象がある」とアドバイスをいただいて、登場人物の名前を出さないようにしました。どこまでが本当で、どこからがフィクションなのか、その境目をあいまいにしている部分もあります。自分が悶々(もんもん)と考えていたこと、心配だったことなどを主人公にゆだねてみました。
――島を訪れた主人公の心を解きほぐしてくれる「ヒカリさん」という元気のいい中年女性が印象的です。
大友:「ヒカリさん」は実在の人物ではないんです。これまで多くの小説を読みながら、様々なヒントをもらってきました。自分に影響を与えてくれたいろんな登場人物が胸の中に残っていて、その人たちを集めて一人の人物にしたらピカッと光る「ヒカリさん」ができあがった。そんな感じです(笑)。
――そうなんですか。この「続・自伝」の描写には特にリアリティーがあるから、てっきりヒカリさんに相当する実在の女性がいるのだろうなと想像していたんですけどね(笑)。
大友:自分の中で生み出した女性ではありますけど、ヒカリさんが主人公に話しかけるシーンを書くうちに「ああ、私はこういう言葉をかけてほしかったんだな」と感じるようになりました。だから途中からヒカリさんに助けてもらうような気持ちで、前向きな気分になりながら書いていました。
――作中の人物に救われるということですね。小説を書くことは、花恋さんにとってそういう意味合いもあるのですね。
大友:あります。『Seventeen』に連載していた当時から、一話一話、少しずつ救われながら今に至っています(笑)。
――ところで「続・自伝」の写真は八丈島で撮影したのですか。
大友:実は伊豆半島の下田なんです。表紙の朝焼けの写真も併せて下田で撮ることになったので、東京を午前2時に出発しました。下田は自然が豊かで、山と海も近くて、八丈島の空気に近かった。本当に感動しました。
「ようやく自分の形が見えてきた気がします」

――2022年7月から半年間、日本経済新聞夕刊の名物エッセイ欄「プロムナード」の土曜日を担当しましたね。毎週1本、計26本のエッセイを書き続けたわけですが、小説とエッセイはやはり勝手が違いましたか(聞き手の吉田は日経在職中に大友花恋の「プロムナード」連載の編集担当を務めた)。
大友:全く違いますね。だから「プロムナード」を書くのはとっても難しかったです(笑)。
――小説よりエッセイの方が難しい?
大友:小説は「ここの話はちょっと物足りないかな」と思ったら、少し大げさにもできるし、ドラマチックにもできるのですが、エッセイの場合はそうはいきませんよね。実際の出来事をどこまでユーモアを交えて伝えられるかが勝負みたいなところがあります。そのためには自分の選ぶ言葉とか話の組み立て方が問われてきますから、付け焼き刃の文章力では歯が立たないなと思いながら書いていました。
――確かに、新聞記事を書く際も「ここにこういう話が加われば、もっと興味深い記事になるんだけどな」と思う瞬間はたくさんありました。もちろん記事に嘘は書けません。その点、小説は自由に想像の翼を広げられますものね。
大友:エッセイは全体の流れの作り方が難しかったですね。複数のエピソードをどういう配分でどう配置して、この話をここでどのくらい面白くして、こことここを共通項でくくって……とかいうことは、全部(聞き手の)吉田さんに教えてもらいました。
――そんなことまで話しましたっけ?
大友:はい、たくさん教わりました。複数のエピソードを何の脈絡もなくつなげていっても不自然な印象を与えるだけだけど、それらのエピソードに何らかの共通点があったとして、それを見つけだすことができれば、数学の因数分解みたいに共通項でくくってつなげられる……とか。
――そういえば花恋さんの「プロムナード」の連載で印象に残っている回があります。自分の高校の近所に橋本環奈さんが映画のロケで現れたという話。
大友:よく覚えていらっしゃいますね(笑)。
――環奈さんが近所でロケをやっていたという高校時代のエピソードだけで引っ張ることもできたのに、もうひとつ別のエピソードをつなげていましたね。今度は自分が俳優としてロケで某高校を訪れたという話です。2つのエピソードの共通項は高校、ロケ、セーラー服。新旧のエピソードをうまくつなげて、優れたエッセイに仕上げていました。ちょっとアドバイスしたら、すぐに実践してくれたから驚いたし、うれしかったし……。
大友:ありがとうございます(笑)。
--『ハナコイノベル。』の特設サイトに特別公開されている「持ちきれない」も新作ですね。
大友:はい。発売イベントの際に配る小冊子にも別の新作を収録しています。まだ編集さんに見せていない新作もあるんです。
――精力的ですね。これからもどんどん小説を書いていく?
大友:いろいろとインプットするのが好きなので、何かしらの形でアウトプットをしていきたい。そうでないと破裂してしまいますからね。そう思っているのですが、アウトプットの方法が何になるのか……。自分でもワクワクしながら、成り行きにゆだねているところです。もし「書きましょうよ」と言っていただけたら、喜んで書くと思います。
――『ハナコイノベル。』はフォト&ストーリー集で、こういう形の本は珍しいですよね。
大友:そうですね。スタッフの皆さんと一緒に、この本を何と呼ぶべきか悩んでいました。単なる短編集でもないし、単なる写真集でもないし。
――『ハナコイノベル。』の第28話「自伝」で、自分は5段階評価でいえばオール4の人間で、何か突出した個性が欲しいと書いていますね。まさにこの本の形は花恋さんならではの成果であって、特別な個性だと思いますよ。新しいジャンルを作ったともいえますから。
大友:ああ、そうだったのか(笑)。この本そのものがアンサーになっていたんですね。いま気づきました。教えてもらいました。うれしいです。いろんなご縁がつながって、自分の個性にたどり着きました。
――「これが私です」といえるものができましたね。
大友:自分の名刺になる一冊ですね。「こういう個性でやらせもらっています」と差し出せる。ようやく自分の形が見えてきた気がします。

■書誌情報
『ハナコイノベル。』
著者:大友花恋
価格:1,100円
発売日:1月20日
レーベル:集英社オレンジ文庫
特設サイト:https://orangebunko.shueisha.co.jp/feature/hanakoinovel





















