大友花恋「いろんなご縁がつながって、自分の個性にたどり着きました」 自身初のフォト&ストーリー集『ハナコイノベル。』

大友花恋、モデルが小説を書くという挑戦
大友花恋『ハナコイノベル。』(集英社オレンジ文庫)

 大友花恋の短編小説集『ハナコイノベル。』(集英社オレンジ文庫)が1月20日に発売された。俳優、モデルとして活躍し、大の読書好きとしても知られる彼女が自ら筆を執った初の小説集だ。専属モデルを務めたティーン向け雑誌『Seventeen』(集英社)に作家兼モデルとして連載した28の物語と写真に、新たに書き下ろした小説1編と撮り下ろしの写真を加えたフォト&ストーリー集の形になっている。

 収録された29編の物語は、恋愛物や青春物からSFやホラーまで実に幅広い。19歳の連載開始時から初々しい感性とみずみずしい文体で10代の女性読者の支持を得ていたが、年齢を重ねるにつれて小説の内容はどんどん深みを増し、文章も洗練されていった。25歳になった彼女に初の小説集に対する思いを聞いた。(吉田俊宏)

「オレンジ文庫と『ハナコイノベル。』はぴったり合っている」

――『Seventeen』で「作・大友花恋の短編小説 ハナコイノベル。」の連載が始まったのは2019年5月号でした。まだ19歳だったわけですね。

大友:そうなんですよ。プロの方々が作っている雑誌に19歳の書く小説が載ってもいいのかな……というのが正直な気持ちでした。中学2年の時から『Seventeen』の専属モデルを務めていましたから、モデルとして私を愛してくださる読者の方々はいる。だから写真と一緒に載せるのであれば、この小説を世の中に出しても許されるのかなと思っていました。

――いやいや、初回からみずみずしい文体に引き込まれますよ。例えば「雨がきこえる」という話はとても余韻のある短編で個人的にも好きなのですが、これは連載が始まったばかりの第3回の作品です。この後も連載が深まるにつれてどんどん進歩していますよね。しかも毎回違ったタイプの小説に仕上がっていて驚かされます。

大友:わあ、うれしい。ありがとうございます。もともと短編集を読むのが好きなんです。連作短編集もいいのですが、次から次へと全く違った話が飛び出してくるような短編集が好みだったので、そこをイメージしていました。

――SFやホラー小説まで出てきますね。

大友:私より若い読者の皆さんを意識しました。今の中高生は本を読む機会がすごく減っているといわれますよね。この企画がそんな若い皆さんにとって小説との出会いの場になるかもしれないと思っていましたから、ホラー仕立てにしてみたら面白いかなとか、SFだったら読みやすいかなとかいろいろ考えました。とにかくこの機会に好きなジャンルを見つけてもらえるように、いろんなパターンで書こうと頑張りました。バレンタインも近いし、次は恋愛小説にしてみようかなとか。そうやって次の作品の方向性を決めていたんですよ。

――プロデューサー的な役割も果たしていたわけですね。

大友:連載でどういう話を書くかについて、編集さんと全く話し合っていなかったんです。最初から私が書きたいように書かせてもらえたし、方向性まで自分で決めさせてもらえた。それが楽しく書き続けられた理由だったと思います。いろんな方向に向けて発想を自由に飛ばしやすかった理由といえるかもしれません。

――19歳にして連載の方向性まで考えていたとは素晴らしい。花恋さんは集英社のライト文芸レーベル「オレンジ文庫」創刊10周年のアンバサダーに就任したそうですね。

大友:そうなんです。オレンジ文庫の小説は物語のドラマチックさがはっきりしていて、どれもとても読みやすいんですよ。私は小中学生の頃に本の沼にはまったのですが、あの時に覚えたワクワク感を思い出させてくれるお話がオレンジ文庫にはとても多くて、若い皆さんが小説に出会うのにぴったりな本がそろっていると思います。だから『ハナコイノベル。』がその一員になれたのはとてもうれしいですし、自分で言うのもおこがましいのですが、オレンジ文庫と『ハナコイノベル。』はぴったり合っているって勝手に思っちゃっています(笑)。

「私だけの一冊ではなくて、スタッフさんも含めたみんなの一冊」

――確かにぴったりです。連載では毎回、小説のイメージを写真で表現して、自らモデルを務めたわけですよね。この『ハナコイノベル。』の文庫にも全話の写真がフルカラーで載っています。写真はどうやって決めていたのですか。

大友:毎回、撮影の1カ月前に小説の原稿をお送りして、撮影までの間に編集の方が構想を練ってくださるというのが基本的なスケジュールでした。撮影当日にカメラマンさん、メイクさん、スタイリストさんたちの力を借りて写真ができるわけです。小説を書いている時点で写真のイメージが自分の中で湧いている場合もあるのですが、自分以外の人にゆだねてしまった方がいいと思っていました。撮影の現場に行くと、自分では予想もしなかったセットや衣装、メイクが用意されているんですよ。それで自分の視野も広がるし、写真のおかげで物語の色が濃くなったり、奥行きが出たりするのが面白くて……。

――印象に残っている写真はありますか。

大友:例えば第1回の「リトープスのはなし」は擬人化したリトープス(サボテンに似た観葉植物)が主人公だから、私はサボテンを持って撮影に臨むことになるのかなと想像していたのですが、全く違いましたからね(笑)。

©大友花恋『ハナコイノベル。』/集英社オレンジ文庫 撮影/伊藤元気(symphonic)

――それとは反対に、小説を書いている時点で写真のイメージが湧いていた回もあるわけですね。具体的に挙げていただけますか。

大友:例えば第11回「溶けない氷の涙」は、ズバリ「顔にスパンコールを付けてみたいです」とお願いしました。第7回「トマトと彼女。」はハンバーガーにはさまっているトマトをめぐる話ですから、もちろん「ハンバーガーを食べたいです」とお願いしました(笑)。だから私が書いているお話ですけど、私だけの一冊ではなくて、スタッフさんも含めたみんなの一冊なのです。

©大友花恋『ハナコイノベル。』/集英社オレンジ文庫 撮影/田中雅也(TRON)

――読者にお薦めしたい回はありますか。

大友:ええっと、妹の話がありましたね。

――第18回「姉妹」ですね。姉と妹とぼろぼろになった毛布の話。私も個人的に大好きな回です。

大友 :ハッピーエンドの話ではないし、姉と妹の2人が幸せになるわけではないんですけど、家族って言葉がなくてもつながる何かがある……。漠然とそう考えていたんですよ。その漠然とした考えが「姉妹」でちゃんと文章になった。ああ、そうだよなと自分でも納得しながら書けた気がするんです。

――自分で書いた小説に自分が教えられた?

大友:そうそう、教えてもらった。

――そういう漠然としたニュアンスは、小説じゃないと書けませんよね。

大友:はい、そのニュアンスはすごく大切でした。姉妹の空気感、2人の会話、あうんの呼吸とかは、今まで自分がお芝居をやらせてもらう環境にあったからこそ書けた部分もあります。だから自分らしい話になったと思っています。

――いろんな作家の影響を受けていると思いますが、好きな作家は?

大友:最初に好きになったのは湊かなえさんです。『ハナコイノベル。』にも少しダークな話がありますよね。湊さんの影響かもしれません。有川浩さん、西加奈子さんもよく読みました。それから小川糸さんが好きなので、やはりあの雰囲気に影響されている面もあると思います。オレンジ文庫では、いぬじゅんさんの作品がお気に入りです。

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