瀧内公美 × 中村文則が語る、実験的な自主映画『奇麗な、悪』の挑戦 「こういう映画がないと、文化が痩せていく」

瀧内公美 × 中村文則『奇麗な、悪』対談

中村「奥山さんみたいなクリエイターがいることは、映画界の希望」

――ほかに出演者がいないなか、映画ではピエロの人形が印象的に使われていますね。

瀧内:そこには演出があってピエロが動き出す瞬間があるんですけど、奥山さんは「反応するかしないかはお任せします。人形を手に取るのでも取らないのでもいいですよ」とおっしゃっていたので、最初は気にかけていました。でも、自分の話に夢中になった時は無視したり、逆に弄んでみたり。

中村:人形ってわかりやすい象徴だから僕は要らないのではと思ったんですが、映画を見ると照明などが計算されていて、なるほどこういうことをしたかったんだとわかりました。途中からはピエロがあまり気にならなくなりますし。あと、部屋にお酒があってちょっと飲んで嫌な顔をするとか、原作にはないところも面白かった。小物がいろいろあって、ああいう部分がけっこうありましたけど、それは自由に動いたんですか。

瀧内:自由に動いてみました。美術でいろんなものを置いていただいていたので、1人遊びしながら喋ってみたり。結果として、意味がないことをやっていたとしても、その過程を追っている観客は少なからずそれを回収したがる癖があるでしょう。意図を探し始める。だから、それをどこまで入れるかはすごく考えました。入れすぎると観客心理として「全然意味なかったじゃん。あれなんだったんだろう」となっちゃう。でも、なにもしないと、ただ女が1人で喋っているという風になるので、心情に合わせてその行動に意味をもたらすことが果たして出来るのか、その塩梅が難しくて、奥山さんは「瀧内さんの自由でいいので」とおっしゃるから、非常に難しかったですね。なんでもOKってけっこう不自由なんです。逆に制限された方がこのなかでなにができるかを考えますけど、自由にやってくださいってこんなに怖いものなんだなと知りました。

瀧内公美

中村:制限が、逆にアイデアを呼ぶこともありますしね。小説は1行目が難しいんです。2行目は1行目によってある程度限定されますけど、1行目は完全に自由なので、可能性ばかりがあると逆に難しい。映画における自由度っていろいろあるんですね。現場で演技する時にこっちへ行ってはいけないとか、アドリブを嫌う監督、望む監督、色々あるでしょうね。

瀧内:人によりますね。映像で見せていくタイプの監督だと絵を作らなきゃいけない。今回の出演は1人でしたからどうやって撮っていくのかは当日にならないとわかりませんでしたが、例えば3人がいて、こちらの2人が盛り上がっていて、自分は1人とり残されるとなった時、フレームのなかで1人が下がって外れていると、登場人物たちの今置かれている状況や心象を説明できる絵が出来上がる。そういう1枚の写真のなかでどう立ってコマのように動くかを求める監督もいれば、とにかくカットを割って、大事な時はアップカットで見せていく監督もいる。どういう監督なのか初日で探ったり、過去の作品を見て傾向を探るみたいなところはあります。

 俳優として現場でなにを求められているかを探しながら提示していくのも面白いですが、まっさらで新しい監督と仕事するのも面白いんです。未知だから。いろんな話をしてこういうのが好きだろうなというのを見つけていく作業も好きで、なんかはみ出す瞬間が面白い。

中村:そういうのはいいですよね。小説は1人で書きますので。それが心地いいんですけど、時には集団作業が羨ましくなることもある。だから、映画化されたのを見て、僕の小説がこういう風になるのかというフィードバックは楽しいです。

――小説を書く時は映像を思い浮かべますか。

中村:場は構築しますけど、映像化したらどうかとかは、一切考えないです。『火』は本来、映像向きではないはずなんです。だから、それを映画化するのが面白いですね。企画自体は、同じ短編を2回目? しかもまだ数年しか経っていない、本気ですかとビックリしたけど、観る前から奥山さんなら間違いないだろうと思っていました。奥山さんみたいなクリエイターがいることは、映画界の希望でもあると感じます。こういう映画がないと、文化が痩せていく。

 僕はこれまで自作の映画化には全部満足していて、満足できる人にしか応じないというか、最初の企画書の段階からだいたいわかるんです。今回のような映画があることも嬉しいし観てもらいたいけど、懸念しているのは、映画の宣伝活動に動く人が出演者と原作者と監督の3人しかいないこと(笑)。どうしたらいいんだろう。

瀧内:もし3回目の映画化があったらどうします? 2030年くらいで。

中村:でも、それをやるのは絶対奥山さんじゃないですか。

瀧内:「やっぱり納得していなくて」とおっしゃって(笑)。

中村:本人に何回もいってるけど、奥山さんはいい意味で頭がおかしい。

瀧内:私は良い意味で山師って呼んでます(笑)。

中村:『銃2020』(中村文則の同名デビュー作を原作とした映画『銃』のスピンオフ)について奥山さんとやりとりしていたら、いつの間にか巧妙に僕が脚本を書くことにされていて、あれ、おかしいなって(笑)。今回『火』の2度目の映画化に関しては桃井さんからもOKをもらったので、3回目は桃井さんと瀧内さんがOKを出したらやるということにしましょう(笑)。

■作品クレジット
『奇麗な、悪』
原作:中村文則 「火」(河出文庫『銃』収録)
出演:瀧内公美
脚本・監督:奥山和由
製作:チームオクヤマ よしもと総合ファンド シー・アンド・アール RON ナカチカ
プロデューサー:豊里泰宏
音楽:加藤万里奈
撮影監督:戸田義久
照明:中村晋平
録音:伊藤裕規
美術:部谷京子
編集:陳詩䆾
音響効果:大塚智子
衣裳デザイン:ミハイル ギニス アオヤマ
ヘアメイク:董氷
劇中絵画「真実」後藤又兵衛
制作協力:シンクイ
制作プロダクション:チームオクヤマ
配給:NAKACHIKA PICTURES
2024年|カラー|日本|78分| ©2024 チームオクヤマ レイティング|G
公式サイト: https://kireina-aku.com
[公式SNS] X: @kireina_aku
Instagram: @kireina_aku2025
ハッシュタグ: #奇麗な悪
note: https://note.com/kireina_aku/

2025年2月21日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー
©2024 チームオクヤマ

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