「フィギュアスケート漫画」なぜ傑作が多い? 話題作『メダリスト』に至るまでの過去の名作たち

『メダリスト』以前のフィギュアスケート漫画

 それでも、才能を見出されてからの吹雪のフィギュアへののめり込み具合を見ていると、そういった天才がいても不思議はないのかもしれない、と思えてくる。持ち前の運動神経に負けず嫌いから積み重ねた練習の成果もあり、競技を始めて1ヶ月半で天才と評判の高かった天沢悠を相手にするくらいの演技を見せるようになる。そうした過程で描かれる、スケートの滑り方からジャンプの飛び方まで含むフィギュアに不可欠な要素を、着実にこなしているという印象が、吹雪の成長に説得力を持たせるのだ。

 ひとつひとつの技や要素に細かくポイントが決められていて、それらを組み合わせ積み重ねていく競技が結果としてどれくらいのポイントを叩き出すかといった解説的な描写もしっかりあるため、読んでいるだけでフィギュアへの理解を深められる。吹雪がヒロイン的キャラクター・白原六花とペアを組んで「ドンキホーテ」を滑る場面では、元になった物語をどう理解し、どう表現したかまで描かれ鑑賞力を深める。

 2005年から2007年にかけて『ブリザードアクセル』が連載されていた当時のフィギュア界は、髙橋大輔や安藤美姫が人気となり、荒川静香がトリノ五輪でアジア選手初の金メダルを獲得して競技人気も最高潮だった。フィギュアに関する知識を漫画で教えてくれた『ブリザードアクセル』も、その一翼を担っていたのかもしれない。

 後に『七つの大罪』で、超個性的なキャラたちによるド迫力のバトルを描いて大人気となった鈴木央が、同じように豊かなキャラ性を発揮していたこともあって、吹雪の仲間たちもライバルたちも誰もが魅力的だ。ケンカばかりしていた不良が氷上の王子様に見えてしまうような変化も楽しめた。吹雪が六花とペアに挑むことにもなったため、ラブロマンスの要素も加わってドキドキさせた。

過去の名作の良さが詰まった『メダリスト』の向かう先は?

 そうしたフィギュア漫画を経た上で、『メダリスト』を見ると、遅すぎると言われたスタートでも諦めず、好きなことに挑むことの素晴らしさを感じさせてくれるところが、『ブリザードアクセル』に重なる。いきなり滑れてしまうところは、『銀のロマンティック…わはは』の更紗とも共通だ。ハンディをハンディと思わせない天才ぶりは、やはりエンターテインメントの主人公に不可欠な要素。そこに、『ブリザードアクセル』ならジョージ・マッケンジーという名コーチがいたように、『メダリスト』には明浦路司という熱いコーチがいて、いのりの秘められた才能を開花へと導く。

 競技に関する解説も細かく書かれていて、競技規則の変更も頻繁に行われるフィギュアの現在により即した知識を得ることができる。何より物語が現在進行形で、どこに向かうか分からないところが良い。過去の名作群に触れて湧き立つフィギュアへの関心を、これから描かれていくだろう物語の上で、登場キャラたちといっしょに高めていけるという意味で、漫画『メダリスト』は今読むべき漫画であり、今観るべきアニメであると言えそうだ。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる