韓国映画は近現代史をどう扱ってきたのか? 日本在住の映画研究家が著した知られざる歴史と内情

■韓国ではビートルズの曲が発禁だった時期も

  それにしても本書を読むと、韓国の歴史や内情について知らなかったことが多すぎると痛感させられる。『バーニング 劇場版』(イ・チャンドン監督)の章に記された、韓国における村上春樹作品受容の過程などがそうで、タイトルの元になったビートルズの有名曲が長年発売禁止だったのは初めて知った。また、『ミッドナイト・ランナー』(キム・ジュファン監督)の章に記された、日本による植民地支配などを理由に中国に脱出し、1980年代頃から再び朝鮮半島に戻った「朝鮮族」に対する根強い偏見や悪意が、近年の犯罪映画を通して更に韓国社会に刷り込まれているという指摘には、そうした知識がない状態でそれらの映画を娯しんだ立場としては暗然とせざるを得なかった。

  著者は自国の歴史の暗部や、長年の儒教思想の影響から脱しきれず男尊女卑や過剰な血統重視が色濃く残る国民性に対して極めて厳しい視線を向けているが、一方で、理不尽に解雇された非正規の女性労働者たちがストライキを行うという内容の『明日へ』(プ・ジヨン監督)を紹介した章では、権力の不正や理不尽な仕打ちに対する怒りをデモなどの行動で表明しない日本人の国民性に納得できないものを感じると記している。仮に、日本で昨年の非常戒厳のような事態が発生したとして、日本の国会議員は、そして市民はどのように反応するのか。

  また、『グエムル—漢江の怪物—』(ポン・ジュノ監督)の章では、この映画の背後にある「嫌でも米軍に頼らざるを得ない韓国の状況、それを利用して韓国を牛耳ろうとするアメリカの横暴さ、その犠牲となる弱者を守ることができない韓国の無力さという悪循環の構造」を指摘しているが、この文章の「韓国」はそのまま「日本」に置き換え可能でもある。日本の読者に対する著者からの問いかけは重い。

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